テラーノベル
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ドアが少しだけ開く。
「……あの」
「入っていい」
声が小さい。
生徒はゆっくり入ってきて、ドアの近くで一瞬止まる。
それから座る。
「……話すの、苦手で」
日下部はそのまま待つ。
「クラスで、ほとんど喋らないんです」
視線は下。
「話しかけられたら答えるくらいで」
少し間。
「自分から行くのは、無理で」
手が少し固まっている。
「でも、周りは普通に話してて」
短く息を吐く。
「自分だけ、ずっと外にいる感じがして」
「“入ろうとして止まってる状態”だな」
日下部は言う。
生徒は小さく頷く。
「……はい」
「完全に諦めてるわけじゃない」
短く言う。
「だからしんどい」
生徒は黙る。
「でも、いきなり会話は無理」
「はい」
即答。
「だからそこはやらない」
生徒は少し顔を上げる。
「え」
「“話す”を目標にしない」
日下部は続ける。
「今の段階でやると、ほぼ失敗する」
生徒は黙る。
「じゃあ何するか」
少し間。
「“存在を消さない”」
生徒は少し戸惑う。
「存在?」
「完全に無反応にならない」
短く言う。
「挨拶だけする。目線だけ合わせる」
生徒は考える。
「それだけでいいんですか」
「いい」
即答。
「ゼロより一にする」
生徒は黙る。
「今は、ほぼゼロ。だから一にする」
少し間。
「……それなら、できるかもです」
「それでいい」
日下部は言う。
「あと」
「はい」
「“話せる人”を目指さない」
生徒は顔を上げる。
「え」
「まず、“いても違和感ない人”」
短く言う。
生徒は少し考える。
「……ハードル下げるってことですか」
「そう」
「段階飛ばすと、ずっと動けない」
生徒は小さく頷く。
「今までいきなり話そうとしてました」
「それが止まる原因」
日下部は言う。
生徒は立ち上がる。
「挨拶、やってみます」
「それでいい」
ドアの前で止まる。
「話せなくてもいいって、ちょっと楽です」
「最初はそれでいい」
短く返す。
ドアが閉まる。
最初から会話を目指すと止まる。
ゼロを一にするだけで、状態は変わり始める。
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