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「三人とも、同じこと言ってる」
燈はスマホを置いて言った。
「時間、場所、動き。
“見た”内容がほぼ一致。
ズレてるのは言い回しだけ――と思ったけど」
「思ったけど?」
真琴が聞く。
「思ったより、言い回しも似てる」
玲が資料から目を上げた。
「“黒い上着の男が、早足で出ていった”
“争う声は聞こえなかった”
“倒れているのを見つけて通報した”
三人とも、語順が近い」
「それ、問題?」
真琴は首をかしげる。
「警察の聴取って、誘導入るし」
「入る」
玲は即答した。
「ただし、ここまで揃うのは珍しい」
澪が、ぽつりと言う。
「質問、同じだったのかな」
「可能性はある」
玲が頷く。
「警察側が“整理した言葉”を使えば、証言は似る」
「じゃあ終わり?」
燈がつまらなそうに言った。
「全員、悪意なし。
警察も雑じゃない。
被告人は運が良かった」
「“運”で片づけるの、早くない?」
真琴は笑ったまま言う。
「依頼人、“三年経っても引っかかってる”って言ってたよ?」
「感情の問題だろ」
燈は肩をすくめる。
「裁判は感情を切り捨てる場所だ」
「でも」
澪が、証言書の端を指でなぞる。
「三人とも、“倒れていた”って言ってる」
「?」
「“倒した”じゃなくて、“倒れていた”」
玲が一瞬、視線を落とす。
「……受動」
「うん。
誰も、“瞬間”を見てない」
燈が鼻で笑う。
「よくある話だ」
「でも」
澪は続ける。
「三人とも、“見た”って言ってるのに」
少しだけ、沈黙。
真琴が間を埋めるように言った。
「まあ、細かい表現の癖でしょ」
「そういうことにしておく?」
澪は真琴を見る。
真琴は一瞬だけ考えて、にこっと笑った。
「今はね」
そのとき、奥の机から伊藤の声がした。
「証言録、警察提出用と裁判用で、微妙に整え直されてる」
全員がそちらを見る。
「内容は同じ」
伊藤は淡々と言う。
「語尾と順番が、少しずつ揃えられてる。
読みやすくするためだろう」
「“ため”ね」
燈が呟く。
「それ、普通?」
「普通だ」
伊藤は否定も強調もしない。
「裁判は文章の場だ。
分かりにくいものは、整える」
「整えすぎると?」
澪が聞いた。
伊藤は一拍置いた。
「……印象は、揃う」
「印象が揃うと?」
燈が食いつく。
「判断が早くなる」
伊藤はそれだけ言って、また書類に戻った。
「まあ」
真琴が手を叩く。
「証言は“問題なし”ってことで。
次、身辺調査いこっか」
「現場は?」
燈が聞く。
「今回は行かない」
真琴は即答した。
「三年前だし、意味薄い」
「じゃあ俺、一人で動く」
「よろしく」
玲はもう次の資料を見ている。
澪は、証言書をそっと閉じた。
――同じ説明を聞けば、
同じ記憶になる。
そんな言葉が、ふと頭をよぎったが、
まだ、言葉にはしなかった。