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陽翔が悠翔の鞄を掴んだのは、まるで私物をあさるような手つきだった。誰もそれを止めない。周囲にいた数人が、息を呑むのが見えた。
鞄の中から取り出されたのは、肌色のコードが巻かれた電動の道具──それは明らかに、家庭用でも医療用でもない。性的玩具だった。形状は曖昧だが、見覚えのある者にはすぐにわかる。
「これ、前のと同じやつだっけ? 壊れたと思ったけど、まだ使ってんのな」
陽翔が嗤いながらコードをほどき、試すようにスイッチを入れると、低い振動音が沈んだ空気を震わせた。
「……やめ……やめて……っ」
悠翔の声がかすかに漏れた。怯えきった声。小さくて、それでも必死だった。
だが陽翔は聞かなかった。
悠翔の制服の裾を乱暴に引き上げ、肌があらわになる。周囲の空気が張り詰める。笑い声が止んだ。陽翔の手元には、コードの先に小さな球体のついたローター。既に何度も使われた形跡があるのだろうか、テープの跡や粘着剤の痕がついたままだった。
「やめ……陽翔、……やだ……やだ……っ」
「うるせえ、静かにしてろ。大学じゃお前、人気者なんだぞ。なあ? みんな、知ってんだろ?」
陽翔はローターのスイッチを強に入れ、乱暴に身体の一部へ押し当てた。悠翔は悲鳴も出せず、身体を跳ねさせた。地面に指を立て、爪を砂利に食い込ませるようにして耐える。
「や、やめて……お願い……もう……っ」
声はしゃがれ、涙と唾液で濁っていた。
陽翔は顔を近づけ、囁くように言った。
「もっと泣けよ。見てる奴ら、そういうの好きなんだよ。お前が“従順”になってくのが、一番の見せ場だってな」
周囲は静まり返っていた。誰かが動画を撮っている。だが笑う者はいない。
瑠衣もその場にいた。スマホはポケットの中、取り出しもせず、笑うこともなかった。口元は引きつり、乾いた唇が何かを言いかけて止まった。
(おかしい……これはもう、“ただのいじり”じゃない……)
遅すぎる認識だった。だが、彼はまだ動かない。動けない。
ただ、誰よりも鮮やかに、悠翔の苦悶を見つめていた。
陽翔はローターを引き剥がし、代わりに次の道具を取り出した──電マだった。コードは長く、延長器具までついている。まるで「撮影用」に準備されていたかのような異様な装備だった。
「次、これ。お前、前のよりこっちのが好きだったろ?」
悠翔は呻いた。首を横に振りながら、涙と鼻水にまみれている。
その姿を、陽翔は嬉々として見下ろしていた。