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放課後の空は、まだ夏を名残らせる白さで、校舎の壁をまぶしく染めていた。隼人は体育館裏のベンチに腰をおろし、額の汗を手の甲で拭った。部活帰りのバスケ仲間を見送り、ひと息つこうとしたとき――。
「おーい、はーやと!」
声の主は、なぜか逆光を背負った大地だった。制服の袖をまくり、片手でパンパンと自販機の缶コーヒーを振りながら、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「おまえ、また元気だな」
「元気じゃなきゃ始まらないでしょ? ほら、これ!」
差し出された缶コーヒーは、キンキンに冷えていた。隼人は受け取りつつ、苦笑する。
「俺がブラック派って知ってたのか?」
「いや、適当!」
「……適当かよ」
呆れたふりをしながらも、心がわずかに温かくなる。大地の“適当”には、不思議と人をほぐす力がある。
しばらく並んで缶を傾けていると、蝉の声の切れ間に、隼人の口が自然と動いた。
「なあ、大地。おまえってさ……いつも笑ってるよな」
「え、褒めてる? ディスってる?」
「褒めてる。けど、たまにはしんどいとか無いのかよ」
大地は一瞬、缶を見つめた。きらりと光った瞳に、影のようなものが小さく揺れる。
――あ、と思った隼人の視線を、彼はすぐに破顔で押し返した。
「しんどい? あるある! でも、笑ってりゃなんとかなるってね!」
明るい声が夕暮れに弾ける。だがその笑顔の奥に、隼人は確かに何かを見た気がした。
胸の奥がざわつく。触れたい、でも踏み込みすぎたくない――そんな迷いを抱えたまま、隼人は口を閉ざす。
「ほらほら、暗い話したら損だぞ。笑っとこ!」
大地が突然、立ち上がって両腕を大きく広げる。「笑えー!」と叫ぶ声に、近くのカラスまで驚いて飛び立った。
隼人もつられて吹き出す。バカみたいに笑う二人を、赤く染まる空がゆっくり包んでいった。