テラーノベル
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「えーっと、塩と砂糖ってどっちが白かったっけ?」
調理室に響く大地の声に、全員が一斉に振り向いた。中学二年の家庭科実習。メニューはオムライス。
「おいおい、見た目一緒でも袋に書いてあるだろ!」
隼人がツッコミを入れると、大地は「だって字ちっちゃいし!」と悪びれない笑顔。
その笑顔にクラス中が笑い、萌絵がすかさずスマホを構えた。
「名場面いただき!」
「実況腐女子、黙ってろ!」
涼が小声で突っ込むが、すでに動画撮影は始まっている。
「大地、こっちは玉ねぎ刻んどいて」
隼人が包丁を渡すと、大地は「任せろ!」と威勢よく受け取り——
「ギャッ!目ぇ痛いっ!」
「そりゃ玉ねぎだからな!」
涙目で叫ぶ大地に、隼人は思わず吹き出した。
「お前、何でも全力なんだな」
「笑ってりゃなんとかなるって、ばあちゃんの口癖だし!」
一瞬だけ、隼人の胸がチクリとした。けれど大地はすぐにニカッと笑う。
やがて完成したオムライスは、卵がやや焦げているのに妙にうまい。
「大地、味見してみろ」
「いただきまーす……うまっ!天才かも!」
「天才は砂糖と塩間違えねえ」
隼人の冷静なツッコミに再び教室が笑いに包まれた。
片付けが終わった頃、萌絵がカメラを掲げて叫ぶ。
「今日のハイライト、“無敵の家庭科王子”大地くん!」
「やめろってー!」
大地が慌てて追いかけ、萌絵が逃げ回る。
「……元気だな、ほんと」
隼人はその背中を見つめながら、小さく息を吐いた。
さっき胸をよぎったチクリを、笑い声にまぎらせるように。
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