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一方、ブランチを楽しみながら、透也と夏帆はこれからの生活について真剣に話し合っていた。
「今日みたいに、突然部外者がいきなりが訪ねてきたら困るだろ? だから、俺としてはセキュリティのしっかりした別のマンションに引っ越したいなって思ってるんだけど……夏帆はどう思う?」
「別のマンション?」
「うん。俺が持ってるタワマン」
「ええっ! タワマン!?」
夏帆は、タワマンなど自分には一生縁がないと思っていたので、思わずのけぞった。
「そんなに驚かなくてもいいでしょ。できれば、なるべく早めに引っ越したほうがいいと思うんだ。どう?」
いきなり「どう?」と言われても、夏帆はただ戸惑うばかりだった。
一緒に住むことは承諾したものの、いきなり高級タワマンに住むなど聞いていない。
「でも、そのマンションは人に貸してるんでしょう?」
「いや。未入居のまま」
「えっ? 誰も住んでないの?」
夏帆は思わず声を上げた。
「もともとは不動産投資の転売用で買ったものだから、いずれ売る予定だったんだよ」
「はあ……」
本物の富裕層は、高級マンションを買っても人には貸さないと聞いたことがある。
貸して汚れれば資産価値が下がるため、新品のまま所有しておくか、貸すとしても身内限定らしいと。
まさか透也がそのレベルの人間だったとは、初めて会った日には想像もしていなかった。
驚く夏帆をよそに、透也は淡々と話を続ける。
「ちなみに場所は、港区、品川区、中央区……あとは江東区なんだけど、夏帆はどこがいい?」
その言葉に、夏帆はさらに目を見開いた。
「四か所もあるの?」
「うん。タワマンはね」
タワマン以外も含めればもっとある――そんな言い方だったので、夏帆は息をのんだ。
庶民の自分なんかが、富裕層の透也の恋人になってもいいのだろうか? そんな不安が胸をかすめる。
それに気づいたのか、透也が穏やかに微笑んだ。
「夏帆は何も心配しなくていいんだよ。ただ、どこに住みたいかだけは教えて」
その言葉に、夏帆は真剣に考え始めた。
「港区は、どのあたり?」
「南青山だよ」
「南青山……!」
南青山は昔から憧れの街だった。
しかし、どうあがいても自分には住めるはずがないと思っていたので、胸が高鳴った。
「南青山がいい?」
「うん……昔から憧れの街だったから」
「じゃあそこにしよう。近所には高級スーパーもあるし、おしゃれな店もたくさんあるからね。きっと気に入ると思うよ」
夏帆の胸はドキドキしていた。
まさか憧れの街に住む日がくるなんて、夢にも思わなかった。
翌日から、二人はさっそく引っ越しの準備を始めた。
仕事の合間には、新居にも足を運んだ。
引っ越し業者もすぐに見つかり、一週間以内に引っ越しできることが決まった。
仕事をしながらの荷造りは大変なので、すべてお任せパックにすることに。料金はすべて透也が出してくれると言った。
「こんなに早く……それも、食事会の前日に引っ越しだなんて。お母様たちが聞いたら驚くわね」
「そうだね。ただ、母さんは喜ぶと思うよ。お友達の引っ越し先の候補が二部屋に増えたんだから」
「確かに……」
二人が一緒に暮らすことは、透也の母の友人のためにもなる。
そう思うと、夏帆は思い切って決断してよかったのかもしれないと思った。
そして迎えた引っ越し当日。
二人は朝から慌ただしく動き回った。
昼前に業者が来て、すべての荷造りをしてくれたので、二人はそれぞれの部屋で指示をするだけでよかった。
こんなに楽な引っ越しは初めてだと夏帆は感動しながら、てきぱきと指示を出していく。
スタッフたちの迅速な作業のおかげで、夕方には新居に荷物がすべて運び込まれていた。
業者が帰ると、透也が言った。
「荷物を出すのは、明日の食事会が終わってからゆっくりやればいいよ」
「うん」
慌ただしい一日から解放され、夏帆はようやくほっと息をついた。
気づけば日は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
先日、新居を見に来たのは明るい時間だったので、夏帆はきらめく夜景を見て、思わず窓辺に駆け寄った。
「綺麗!」
「絶景だよね。これだけでも価値があるよな~」
「本当。こんな素敵な景色が毎日見られるなんて、夢みたい」
夏帆は、胸いっぱいに広がる幸福感を抑えきれなかった。
まるで自分の人生が突然きらめき始めたような、そんな不思議な感覚だった。
そのとき、インターホンが鳴った。
透也が応答し、玄関へ向かう。
(誰だろう?)
少し気になったものの、目の前の夜景があまりにも素晴らしくて、夏帆は再び窓の外に視線を戻した。
宝石のように瞬く光が、心の奥まで染み込んでくる。
しばらくして、透也が戻ってきた。
「誰だったの?」
振り返った夏帆の視界に、真っ赤な花束を抱えた透也の姿が飛び込んできた。
それは夏帆の好きなガーベラで、見たことのないほどの数の豪華な花束になっていた。
「わぁ……なんて素敵なの!」
「一緒に住んでくれる夏帆への感謝の気持ちだよ」
「ありがとう。私の好きな花、覚えててくれたんだ」
「もちろん、忘れるわけないさ」
透也は大きな花束をそっと夏帆に渡すと、次の瞬間、静かにひざまずいた。
「ど、どうしたの……?」
夏帆が言い終わる前に、透也が真剣な眼差しで口を開いた。
「夏帆! 結婚しよう」
「……」
突然のプロポーズに、夏帆は息をのみ、言葉を失った。
「あの日ベンチで会った瞬間から、俺は君に心を奪われた。まだ付き合い始めて間もないけど……心から君と結婚したいと思ったんだ。だから、これを受け取ってほしい」
透也はポケットから小さな箱を取り出し、ゆっくりと蓋を開いた。
中には、シンプルなデザインのダイヤモンドの指輪が眩しく輝いていた。
「綺麗……」
夏帆はそのきらめく輝きに心を奪われた。
「俺の彼女はミニマリストさんだから、指輪はいらないって思ってるかもしれないけど、これだけは受け取って……そしてできれば、いつも身につけていてほしい」
その言葉に、夏帆の胸がぎゅっと締めつけられた。
「本当に、私でいいの?」
「当たり前だろ。夏帆がいいの。俺のお嫁さんになってくれる?」
夏帆は潤んだ瞳で透也を見つめ、そっと微笑んだ。
「はい。よろしくお願いします」
「やった! ありがとう、夏帆!」
透也はほっとした様子で微笑むと、指輪を取り出し夏帆の左手の薬指にはめた。
「あれ? ちょっと大きかった?」
「ほんのちょっとね」
「しまったな……明日の食事会の帰りに直しに行こう」
「大丈夫よ。このままで……」
夏帆はそう言って指輪を頭の上に掲げたが、重みのある大きなダイヤはくるりと回ってしまった。
「やっぱりダメだよ。明日サイズ直しね」
「分かった。でも、嬉しい。ありがとう」
夏帆は嬉しそうに微笑むと、透也の首に両手を回して背伸びをしながらそっとキスをした。
透也も夏帆を抱き寄せ、熱い口づけを返す。
抱き合う二人は、まさに幸せそのものだった。
出会って間もないはずなのに、ずっと昔から寄り添ってきたかのようにごく自然で、しっくりとお似合いの二人だった。
窓の外では、まるで二人の婚約を祝福するかのように、夜の闇に浮かぶビルの灯りが宝石のようにきらめき続けていた。
<了>
最後までおつきあいいただき、本当にありがとうございましたm(__)m✨
明日、一話完結の『おまけストーリー』をアップする予定です。
よろしければ覗いてみてくださいね(^^)/✨ 瑠璃マリコ🌌
コメント
39件
出来る男の決断の速さとプロポーズにうっとりしていた私😍 これから!!と思ったら完結😫 マリコワールドに入り込む私は、あっという間でした😭完結おめでとうございます!明日のお話も楽しみ♡

マリコ先生、完結おめでとうございます。 最終話とは寂しいよ〜。その後のあちらの2人の様子も教えて下さい。(笑)
マリコさん、完結お疲れ様です🍻 第一話からはまるで想像の付かないような透也さん。 お話とっても面白かったです! 夏帆ちゃん、無事幸せになってくれて良かった😌💖 ……例の二人の様子も気になりますけどね(笑)