テラーノベル
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七星の件について義理の両親から許しを得た優人は、胸のつかえがひとつ取れたように、どこか心が軽くなっていた。
最愛の娘を失った二人を、これ以上悲しませるわけにはいかない――ずっとそう思っていた。
だが、思慮深く温かな二人は、驚くほどあっさりと背中を押してくれた。
大きなハードルをひとつ越えた気がして、優人の口からは思わず鼻歌が漏れる。
その様子に気づいた麗華が、医局で声をかけてきた。
「先輩、何かいいことでもあったんですか?」
「さぁ、どうかな」
「やけに嬉しそうですよ」
「ははっ、気のせいだよ」
そのとき、優人のデスクの上で携帯が震えた。
画面を見た瞬間、優人は待っていたと言わんばかりに手を伸ばす。
画面を確認すると、優人は医局のメンバーに声をかけた。
「すみません。じゃあ、お先にお昼行ってきます」
「「「いってらっしゃい」」」
優人が医局を出ていくのを見届けると、一人の医師がぽつりとつぶやいた。
「なんか、尾崎先生、最近楽しそうですよね」
「そう思います? 実は私もそう思ってました。千葉に行ってから、すごく元気になりましたよね」
「何かあったのかな?」
そこへ、優人の同期・伊藤宏太が、にやりと笑って口を挟んだ。
「あれは、女だな」
「「「女?」」」
「そう。好きな女でもできたんだろう」
プレイボーイとして名の知れた宏太の言葉に、その場の空気が一瞬止まる。
「え、でも尾崎先生、三年前に奥様が亡くなられたばかりじゃ?」
「いや、もうすぐ四年かな」
「とにかく、まだ時間がそんなに経ってないのに……」
そこで伊藤が持論を語り始めた。
「四年もあれば十分ですよ。健康な男なら、そろそろ女が恋しくなる頃でしょ?」
「でも先輩。尾崎先生は真面目だし、すぐに新しい恋になんて……」
「ははっ。君はまだ若いね~。優人は三十代の男盛り、おまけに、脂の乗った名医だぞ? 高度な手術を毎日こなしてたら、ドーパミンやテストステロンがドバドバ出るんだから、もう抑えきれないと思わないか?」
「抑えられないって、何をですか?」
きょとんとした顔の新人医師は、その意味が分からず素直に尋ねた。
「ばーか! 決まってるじゃない。“性欲”という女を欲する“意思”だよ。“医師”だけに。なーんちゃって!」
そこで、中年のベテラン女医が大笑いした。
「やだもう、伊藤ちゃんたら! 過激すぎるわよぉ。もうちょっとオブラートに包んで言いなさいよ。一応女子がいるんだから」
「すみませーん。ズバリすぎました?」
「ほんと、まいったわ~」
女医の笑いにつられて周囲も笑う。
しかし、麗華だけが表情を曇らせ、無言で席に戻った。
(尾崎先輩に新しい女? 冗談でしょう?)
心の中でつぶやきながら、麗華は両手をぎゅっと握りしめた。
医局を出た優人は、売店で弁当を買い、屋上へ向かった。
この病院の屋上は緑化庭園になっており、昼休みに一息つくには最適だ。
秋の爽やかな風に吹かれていると、千葉の病院で七星と海風に包まれて語り合った日々がよみがえる。
気づけば、優人は屋上で昼食をとることが増えていた。
人の少ない隅のベンチに腰を下ろし、弁当を開く前に携帯を確認する。
画面には、七星からのメッセージが届いてた。
メッセージには、一枚の写真が添えられている。
七星手作りの弁当の写真だ。
最近、二人は昼食の写真を送り合うのが習慣になっていた。
写真を見た優人は思わずつぶやく。
「おっ、美味そう!」
唐揚げ、卵焼き、きんぴらごぼう――その隙間には、ブロッコリーとプチトマトが彩りよく並んでいる。
それに比べ、自分の茶色一色の弁当を見て、優人は苦笑した。
(彼女の手作り弁当、一度くらい食べたかったな……)
そう思いながら返事を送り、自分の弁当の写真も添える。
ほどなくして返信が届いた。
【生姜焼き弁当、美味しそう】
【味はまあまあだけど、見た目がね】
【最近のお弁当って、副菜があまり入ってないよね】
【うん。物価高のせいかな。だから茶色一色なんだろうな】
【せめてお漬物くらいあればいいのにね】
【僕もそう思うよ。しば漬けとか入れてほしかったなあ】
【たくあんと野沢菜でもいいかも。彩り的にはね】
【たしかに】
何気ないやり取りが、今の優人にはたまらなく楽しい。
遠く離れていても、こうしてつながれる。
携帯を発明した人は天才ではないか――そんなことを思いながら、ようやく弁当に箸をつけた。
優しい風が頬を撫でる。
その瞬間、あの海の潮の香りと、真っ青な空に浮かぶ白い雲が恋しくなる。
なぜもっと早く七星と出会わなかったのか。
なぜもっと親しくなっておかなかったのか。
それだけが悔やまれてならなかった。
今、優人ははっきりと気づいていた。
自分は七星という一人の女性を、確かに愛している。
離れているほど、その思いは強くなる。
そのとき、再び七星からメッセージが届いた。
【仕事に戻る前に、おまけね!】
添えられていたのは、優人がちょうど恋しく思っていたあの海の写真だった。
「僕が求めていたものを、どんぴしゃりで届けてくれたな」
優人はそう呟き、嬉しそうに空を見上げてから、ふたたび弁当を食べ始めた。
その様子を、屋上庭園の木陰から麗華がじっと見つめていた。
(やっぱり、新しい女ができたのね)
予想が確信に変わった瞬間、麗華は唇を強く噛みしめ、静かにその場を離れた。
コメント
14件
怖い😱麗華‼️優人先生のんびりお弁当食べている場合では無いですよ 麗華が七星ちゃんの存在を確信したようです😱 どんな手を使って七星ちゃんを潰そうとしてくるのか 続きが怖い😱です

優人さんと七星ちゃん🌟優しいやり取りでほっこりしますね! それに比べ、霊華は何を企んでいるのやら😤早く〇〇病院へ送ってしまってください🤣
好きな人が出来たら自然と浮かれちゃいますよねー🤭💕 七星ちゃんとの携帯での写真のやり取り、可愛いです🥰こちらまでピュアな気持ちになるー💕 恋心募る優人先生、七星ちゃんと早く会えたらいいなぁー😊😊 女豹のレーダー怖すぎる🤣 優人先生気をつけて‼️ 2人の邪魔しないでよーーー💦
白山小梅