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Rさんは三十代半ばの専業主婦。
以前住んでいた町には忘れられない出来事があったと言う。
「その家はウチから数軒先にあって……ご近所の人達は『幽霊屋敷』って呼んで怖がってましたね」
実際、その家にまつわる怪異を目撃したという人々の話を簡単にまとめると、
深夜、誰もいないはずなのに窓から明かりが漏れているのを見た。
屋根の上で青白く輝く、幼い女の子が躍っている。
庭に背広姿、片手にビジネスケースを携えた男が立ち尽くしているが誰が声をかけても一切反応しない。
高校生がキモだめしと称して家の中に侵入したが、家の奥から出現した得体の知れないモノに追い回された……等々。
その影響は「家」の敷地だけではなく、周辺の住宅街にも及んだ。
帰宅途中と思しき、学生やサラリーマン、OLなどが顔面蒼白で玄関に飛び込んで来て騒ぎ立てたことは一度や二度ではなかった。
「主人やうちの子達も例外じゃなくて……。何を見たのか、いくら尋ねても教えてくれませんでしたけど」
ひょっとしたらあの『家』を中心に霊道ができているのではないか。
住民の中には訳知り顔にそんなことを言う人もいてRさんの不安は増すばかりだったそうだ。
そんなある年の暮れのこと――。
近隣住民が恐れて近づきたがらない『家』に入居者が現われる。
仕事の関係で都会から引っ越して来たというSさん夫婦が挨拶に現れたのだ。
一ダース近くもの人数の子供をゾロゾロと引き連れて。
「何だか変わった雰囲気の人達でした。こんな言い方は失礼ですけど、お二人とも若すぎるというか未成年にしか見えなくて……」
それに子供たち……。低学年から中学生ぐらいの少年少女はみんな一様に無表情で顔色が悪く、死んだように大人しかったという。
「とにかく気味が悪くて……。その時はそれで済んだんですけど……」
それからしばらく時間を空けて――Rさんは家族やご近所の人々から一家について奇妙な噂話を聞くことになる。
見た目の若すぎる夫妻はどこかで働きに行っている様子もなければ、子供達も学校に通っている様子もないが、夜になると家族総出で近所を当てどもなくウロウロしている、と。
「一体何をしているのか、気にならない訳じゃなかったけど面倒ごとに巻き込まれるのも嫌で……。だからSさん一家と会わないよう外出も避けるようになって……」
とは言え、悪いことばかりでもなかった。
一家が『幽霊屋敷』に引っ越してきたのとほぼ同時、
「……あれほどご近所の皆さんを怖がらせた幽霊やお化けが急に現れなくなったって。うちの家族も夜道が怖くなくなったって。そう言うんです」
それから半年ほど経って、またRさん宅をSさん夫婦が訪ねて来た。
仕事の関係でまた引っ越す事になったから挨拶に来たのだと言う。
その言葉に何となく安堵を覚えたRさんだったが……。
子供たちの姿がなかった。いつもゾロゾロ引き連れて歩いていた子供たちがただの一人もいなかったのだ。
「それで……私、それとなく聞いてみたんですけど……そしたら……」
Rさんの問いに二人は顔を見合わせ、「私達子供なんていませんけど?」と不思議そうに答えたという。
「私の勝手な想像ですけど心霊現象が消えたことと突然子供たちが消えたこと、明らかに二人が惚けていることは何か関係ある気がして。……あの『幽霊屋敷』ですか? 今もまだあると思いますよ。Sさん夫婦がいなくなってすぐ、新しい人たちが越して来たけど特に悪いこともなく普通に生活されていたみたいです。あの『家』で何が行われていたのか、今となっては知りようもないし知りたくもないですね」
Rさんはそう言ってため息をついた。