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#異能
Tくんは小学6年生の男の子。
田舎の親戚とは家族ぐるみで仲が良く、毎年夏は大所帯でキャンプに出かけると言う。
「従兄弟は僕と同じ歳の男の子ばかりだからいつも盛り上がるんですよね」
Tくんたちは昼間は昆虫採集や川遊び、アスレチックフィールドなどのアクティビティーで大いに暴れ、夜はバーベキューをたらふく食べ、キャンプ場の広場で花火を楽しんだ。
それから遊歩道をワイワイ言いながら宿泊予定のコテージまで戻ることになったのだが、
「山の夜空ってすごく綺麗なんです。流れ星や天の川に目を奪われてたら……」
気がつけばTくんみんなからはぐれてしまっていた。
「スマホは置いて来ちゃったし、遊歩道とは言え山の中で真っ暗だし」
思わず泣きそうになったが道は一本道で、コテージまでは20分弱。
歩いて歩けない距離でもないと判断した。
「怖かったけど、とにかく早く戻ろうとしたんです。そしたら――」
5分ほど歩いた頃だったという。背後から自分に向かって着いて来る複数の足音が聞こえて来た。
「他のお客さんが追い付いて来たのかと思いました。最初はその人たちと一緒に戻れば心強いかなって思ったんですけど……」
なぜか、鳥肌が立った。
背後から近づいて来る者たちに見つかれば絶対怖い目に遭うと確信した。
そこでTくんは飛び込むようにして、近くにあった藪の中に身を隠していた。
その集団が目の前を通りかかったのは、ほとんどタッチの差だった。
「本当に変な人達でした。あんな真っ暗闇の中、懐中電灯もなしでお互い一言も話さないんですから」
姿を現したのは二人の年若い男女と一列になってその後をゾロゾロと引き連れられた子供たちだった。子供たちは性別も年齢もまばらだったが、皆一様に無表情でどこも見ていない虚ろなまなざしをしていた。
「だから最初、幽霊が現れたのかと思って本当に怖くて……」
Tくんが息を飲んで見守っていると突然、Tくんと同じ年頃の男の子が一人、行列から飛び出し、ガバッと地面にひれ伏していた。
それから犬のようにクンクンと――Tくんもに聞こえるような鼻息を立てながら土の上を嗅ぎ回るような仕草を始める。
二人の男女も立ち止まり両手の指を複雑に絡め合わせて、
「マントラって言うんですか?その、呪文みたいなやつをブツブツ唱え始めたんです。アニメでよく見るような」
と、女の子が地面をかきむしって穿り返し、何かを引きずりだした。
青光りして、ヌメヌメとした質感の皮膚をもつそれをTくんは一瞬、蛙かと思った。
「だけど、その蛙……人間の顔をしていたんです。はげ頭の中年のおじさん」
頭の中が真っ白になるのを覚えながらTくんは女の子がその奇妙な生き物をゴクリと飲み込むのを見た。
それから何もわからなくなった。
「次に目が覚めたのはコテージの中でした。そ泣き出しそうな顔をしたお父さんとお母さんがいて……」
夜道で見た、あの男女もいた。
端正と言ってもよい顔に不自然なくらい優しい笑みを貼りつけて。
「お母さんが言うには夜道で倒れていた僕を見つけて連れて来てくれたのはあのお兄さんとお姉さんだって。だけど……」
本当のことは何も話せなかった。
親戚たちにTくんが目覚めたことを知らせてくると両親が席を開けた隙を見計らうように男女が耳打ちしてきたからだ。
「君は何も見ていない。意味は分かるよね?」
結局この出来事が何だったのか、Tくんには見当もつかないらしい。
だけど、詮索するつもりもないと言う。
「こんな話誰に聞かせたって信じてくれっこないし。おじさんは変な話を集めるのがお仕事だって言うから吐き出したけど……。あんな事1秒も早く忘れたいです」
もう夏キャンプなんか行きたくない、そう言ってTくんは何度も首を横に振った。
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