テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
教室の床に、小さな光が散っている。
最初は何か分からなくて、ただ違和感だけがあって、でも近づくにつれてそれが全部同じ形をしているのが見えてくる。
押しピン。
ばらまかれている。
机の間に、まばらに、でも避けきれないくらいの密度で。
「なあ」
呼ばれる。
分かっている。
「来いよ」
足が止まる。
「……何これ」
聞く。
聞いた時点で、もう遅いと分かる。
「見て分かんねえの?」
笑い。
「ゲーム」
軽く言われる。
その軽さが、余計に現実味を削る。
「無理」
反射で出る。
すぐに空気が変わる。
「無理?」
距離が詰まる。
「またそれ?」
ため息混じり。
「覚えろよ、いい加減」
低い声。
逃げ道が消える。
「靴、脱げよ」
言われる。
意味は分かる。
でも、動かない。
「聞こえてる?」
肩を軽く押される。
強くはない。
でも、拒否を許さない圧だけがある。
「……やめて」
小さく言う。
一瞬、静かになる。
「やめて、ってさ」
繰り返される。
笑いが広がる。
「誰に言ってんの?」
視線が一気に刺さる。
逃げ場がない。
分かっている。
ゆっくり、靴を脱ぐ。
床の冷たさが、やけに強く感じる。
「はい」
誰かが手を叩く。
「スタート」
軽い声。
でも、動けない。
目の前に、点みたいに散っているそれが、全部危険に見える。
「早くしろよ」
急かされる。
「止まるなって」
言葉が重なる。
止まったら、終わる。
それだけは分かる。
一歩、出す。
足の裏に、違和感。
踏まないようにしようとする。
でも、完全には避けられない。
体が固まる。
次が出ない。
「遅え」
すぐに来る。
「なにビビってんの?」
笑い。
「進めよ」
背中を押される。
バランスが崩れる。
一歩、強く踏み込む。
瞬間、体が反応する。
息が詰まる。
でも、声は出さない。
出したら、増える。
分かっている。
「ほら、いけんじゃん」
軽く言われる。
その軽さが、余計にくる。
また一歩。
また、同じ。
避けようとしても、完全には無理で、少しずつ当たる。
そのたびに、体が反応する。
でも、止まらない。
止まれない。
「なあ」
声。
「それさ」
少し間。
「四つん這いでやれよ」
意味が落ちるのに、少し時間がかかる。
その間に、周りが反応する。
「いいじゃん」
「低くなるから見やすいし」
笑い。
「やれよ」
短く。
命令。
「無理」
今度は、少し強く言う。
その瞬間、空気が止まる。
「は?」
低い声。
距離が詰まる。
「まだ言う?」
目が合う。
逸らせない。
「……ごめん」
先に出る。
もう条件反射みたいに。
「だよな」
軽く戻る。
でも、逃げ道は戻らない。
ゆっくり、しゃがむ。
手を床につける。
さっきより近い。
全部が、近い。
逃げ場がさらに減る。
「はい、スタート」
また同じ声。
でも、今度は違う。
一歩、手を出す。
どこに置くか、考える。
考えた瞬間に遅れる。
「止まるなって」
すぐ来る。
急いで置く。
当たる。
反射で体が揺れる。
「おい」
声が落ちる。
「崩すなよ」
低い。
脅し。
「そのまま進め」
逃げ場がない。
次、次、と動かす。
避けきれない。
全部は無理。
分かっている。
でも、やるしかない。
視線が、上からずっと落ちている。
消えない。
「なあ」
誰かが笑う。
「顔やばいって」
笑いが広がる。
「そんな顔するならやるなよ」
矛盾。
でも、正しいみたいに扱われる。
進む。
ただ進む。
何も考えない。
考えたら止まる。
止まったら、終わる。
それだけが残る。
やっと終わりに近づく。
最後の一歩。
抜ける。
そのまま止まる。
動けない。
「遅」
すぐに落ちる言葉。
「使えねえ」
笑い。
でも、もう終わりの空気。
「片付けとけよ」
軽く言われる。
当然みたいに。
床を指される。
ばらまかれたままのそれ。
「全部」
逃げ場はない。
「……わかった」
しゃがむ。
一つずつ拾う。
さっきまで踏まされていたものを、今度は手で集める。
その間も、視線は残る。
笑いも、残る。
全部終わった頃には、
何も考えられなくなっている。
ただ一つだけ残る。
止まるな。
逆らうな。
空気を壊すな。
それだけ守れば、
これ以上は増えない。
コメント
1件
いやもう…読んでて息ができなくなった😭💔 押しピンが床にばらまかれてる時点でヤバいって分かってたけど、四つん這い命令は本当にエグすぎる…「ごめん」って先に出ちゃうところがもう、どれだけ慣らされてるか伝わってきて辛すぎた。 「止まるな。逆らうな。空気を壊すな」って最後の三行、心臓掴まれたみたいになったよ…🥺✨ この空気感、マジでずっと残る…ruruhaさんの表現力すごすぎるけど、続きが気になりすぎて怖い!!