テラーノベル
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放課後。
人は残っている。
完全には静かじゃない。
笑い声も、机の音もある。
その中で、呼ばれる。
「来いよ」
教室の中央。
机が少しずらされて、空間ができている。
そこに立たされる。
囲まれる。
距離が近い。
「じゃあさ」
軽い声。
「ゲームな」
笑いが混じる。
内容は説明されない。
でも、拒否する空気はない。
「簡単」
一人が言う。
「言われた通りにやるだけ」
それだけ。
それだけなのに、 妙に重い。
「いい?」
頷くしかない。
「じゃあ、いくぞ」
一瞬の間。
「動くな」
止まる。
反射で。
その瞬間。
「なんで止まってんの?」
別の声。
すぐ来る。
「え」
思わず出る。
「聞こえてない?」
距離が詰まる。
「来いよ」
別方向から声。
一歩出る。
「動くなって言ったよな?」
さっきの声。
戻ろうとする。
「遅えよ」
さらに別の声。
笑いが広がる。
どっちも違う。
頭が追いつかない。
「返事しろ」
言われる。
「……はい」
口に出す。
「喋んな」
即座に来る。
空気が一瞬で変わる。
「今喋ったよな?」
近くで笑い。
「何してんの?」
言葉が詰まる。
「違う、今——」
「言い訳すんな」
遮られる。
肩を押される。
体がぶれる。
「ちゃんとやれよ」
“ちゃんと”が分からない。
「ほら」
誰かが言う。
「もう一回な」
最初から。
「動くな」
止まる。
「来い」
止まる。
「聞こえてる?」
止まる。
背中に衝撃。
押される。
「来いって言ってんだろ」
動く。
「動くなって言ったよな?」
すぐ来る。
また止まる。
「遅え」
蹴られる。
バランスが崩れる。
でも倒れない。
倒れたら、また何か増える。
分かっている。
「なんでそんな簡単なことできねえの?」
笑い混じり。
「バカ?」
言葉が落ちる。
何を選んでも違う。
どれも正解にならない。
でも、止まることもできない。
「ほら、次」
声が重なる。
「動け」
「動くな」
「返事しろ」
「喋んな」
全部同時に来る。
頭の中で整理しようとする。
でも、間に合わない。
一つ選ぶたびに、 別の違反が増える。
「遅えよ」
腹に、強い衝撃。
一瞬、息が抜ける。
声が出ない。
「ちゃんとやれって言ってんだろ」
また来る。
今度は横から。
体が揺れる。
呼吸が浅くなる。
でも止まれない。
「ほら」
誰かが笑う。
「できるだろ?」
できない。
分かっている。
でも、
「……やる」
口に出る。
何を、かは分からない。
「じゃあやれよ」
すぐ返る。
同時に、また命令。
「動くな」
「来い」
体が止まる。
その瞬間、
「今止まったよな?」
低い声。
距離が近い。
「空気止めんなよ」
腹に、もう一発。
今度は深い。
息が完全に抜ける。
膝が落ちそうになる。
でも、耐える。
倒れない。
倒れたら終わる。
「ほら」
腕を掴まれる。
無理やり立たされる。
「続けろ」
短く。
命令。
何をすればいいか分からないまま、また声が重なる。
「動くな」
「来い」
「返事しろ」
「喋んな」
全部、同時。
全部、正しくない。
全部、逃げ場がない。
頭の中で、何かが崩れる。
順番が分からなくなる。
どれを優先すればいいか分からない。
そもそも、優先なんて存在しない。
「なあ」
誰かが言う。
「なんでできないの?」
その問いに、答えがない。
言葉が出ない。
出したら、また違反になる。
沈黙が続く。
それも違反になる。
「ほんと使えねえな」
笑い。
最後に、腹にもう一発。
息が潰れる。
体が折れる。
でも、倒れない。
倒れないようにする。
それだけを考える。
呼吸が戻らないまま、遥は立っている。
何もできないまま、
全部間違えたまま、
その場に残されている。
#月山
コメント
1件
読了しました。このエピソード、すごく息苦しかったです。「動くな」「来い」「返事しろ」「喋んな」と矛盾した命令が同時に降ってきて、何を選んでも間違いになる——あの逃げ場のなさが、短い言葉と空白だけでここまで伝わるのはすごい。書かれていないこと(加害者の表情、背景、主人公の内面の語り)が多いほど、逆に読者の想像が膨らんで、恐怖が増幅される構造になってますね。あと、「倒れないようにする」という一点だけを考える最終盤の集中、あれがリアルでした。ruruhaさんの、描写を削ることで逆に強度を上げる文体、とても好きです。