テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
席替えで隣になって以来、大地と隼人のやりとりはクラスの名物になっていた。この日も授業中、大地がノートを机から落とす。
「おっと! これは“イケメン隼人くんに拾わせるイベント”だな!」
わざとらしく叫びながら、身を乗り出してノートを拾おうとする大地。
教室のあちこちから笑い声が上がる。
隼人は渋々立ち上がり、ノートをひょいと拾って机に叩きつけた。
「はい。うるさい」
「ありがとー! いやー、隼人が隣で助かるわ!」
「助かってねぇだろ、お前」
そんな漫才を、後ろの席の女子・萌絵はじっと見つめていた。
ぱっと見は普通の女子。髪は肩まで、いつも静かにノートをとっている。
だが、心の中では実況が止まらない。
(きたきたきた! ノート拾いイベント!! これ、少女漫画だったら“偶然手が触れる”やつじゃん! いや実際は叩きつけてたけど! でも照れてる! 隼人くん絶対照れてる!!)
顔がにやけるのを必死で抑え、ノートの端に小さく「尊い」とメモる萌絵。
しかし、背中に視線を感じてはっとする。
「……おい。お前、なんで笑ってんだ」
隼人の低い声。
ギクリとした萌絵は慌てて首を振る。
「な、なんでもないです!」
そこへ大地がくるっと振り返り、にこっと笑った。
「お! 後ろの子、今笑ってたろ! だろだろ、俺と隼人のコンビ、結構イケるよな!」
「ち、ちが……!」
「遠慮すんなって! これからもいっぱい笑わせてやるからさ!」
「バカ大地! お前は何言ってんだ!」
隼人が真っ赤になって怒鳴る。
けれど大地は気にもせず、サムズアップ。
「な? 見てろよ。俺と隼人、最高のエンタメだから!」
(エンタメじゃない!)
隼人は頭を抱える。
一方、萌絵はノートの隅に書き加えた。
「公式が最大の供給源……」
机に突っ伏して悶える彼女の背中を見て、隼人の混乱はさらに深まっていった。