テラーノベル
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放課後の教室。窓から差し込む斜めの夕陽は、教室の中に長い影を落としていた。数人のクラスメイトが、遥の周りを囲む。彼は、机に背を預けたまま、視線を落としている。
声が、ざわめきが、彼の耳にまとわりついて離れなかった。
「なんでお前、あんなに嫌われてるか、わかってんの?」
鋭い女の声。クラスで一番声が大きい女子だ。遥は一瞬、顔を上げたが、すぐに伏せた。
「だって……お前、臭いし、汚いし、なんか……気持ち悪い」
別の男子が続ける。声は冷たく、まるで殺菌剤を浴びせるように。
「何考えてるか分かんねえし、近づくと気持ち悪いんだよ。変な目で見てるくせに、何もしないし」
「そうそう。お前がいるだけで、空気が腐る」
声はどんどん大きくなり、遥の心臓はゆっくりと絞られていくようだった。
「しかも、こいつさ、夜中に変な声出してるって噂もあるらしいぜ」
「マジで?それ、怖すぎるんだけど」
遠くの誰かが嘲笑う。
「なんでそんな奴が、同じクラスにいるんだよ」
「しかも、あの家庭のこと知ってるだろ? そんなの、普通の奴が耐えられるわけないじゃん」
言葉の刃は、遥の胸を何度も何度も刺し貫いていく。
「お前、たぶん、自分が何で嫌われてるか、わかってないだろ?」
「……おれ、……わかってるよ」
遥の声は掠れていたが、確かなものだった。
「おれは……“存在”が嫌われてるんだ」
「そうそう。だから無理すんなよ、相手にされてないんだから」
「でもお前、自分が壊れそうになるの、楽しんでるんだろ?」
「……そんなこと、ない」
だが言葉は届かない。誰も彼を信じない。
「嘘つけよ。触られるの、怖がりながらも、どこかで望んでるんだろ」
「そうそう、“壊れて”楽になりたいんだろ」
叫び声にも似た囁きが、クラス中に広がる。
遥は、耳を塞ぎ、目を閉じた。
だが、心の奥では、呟いていた。
「おれは、壊れたくない」
それだけが、ひそかな叫びだった。
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