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※この回から読みようによっては曖昧にしてますが性的要素たまにあり。
午前一時を越えた頃、ドアのチャイムが鳴った。
――まさか、という思いよりも先に、悠翔の中に浮かんだのは、確信だった。
それはもう、この時間に鳴るべきでない音ではなく、予感が具現化したような音だった。
インターホンに映った顔。
蒼翔だった。
何も言わず、ただカメラを見つめていた。瞳が笑っていないどころか、明らかに荒れていた。
その表情を見ただけで、悠翔は「何もしてはいけない」と直感した。
ドアを開けると、蒼翔は無言で部屋に入り込んだ。靴のまま、やや足を引きずるようにして。
視線は一点に定まっておらず、苛立ちを押し込めきれていない顔だった。
「なぁ、お前さ、避けてるだろ、最近」
入ってすぐ、ドアが閉まる前に言葉が落ちた。
「そういうの、ムカつくんだけど。クソ忙しいのに、わざわざ来てんだよ?」
口調は荒く、抑えの利かない吐き捨てだった。
「なんで連絡しねぇの? 俺がどんな気分でこの一週間過ごしてたと思ってんだよ」
ソファにドカッと腰を下ろしながら、テーブルの上のコップを勝手に手に取って床に叩きつける。
音が室内に乾いた破裂音として広がる。
「ふざけんなよ……おまえのせいだろ。全部」
唇を噛みながら、目が据わっていた。
悠翔は何も言えなかった。言葉を発すれば、それが引き金になることが分かっていた。
ただ、じっとその場に立ち尽くしていた。
蒼翔は立ち上がった。荒い息のまま、数歩で悠翔の目の前まで詰め寄った。
「おまえさ、ほんと、黙ってりゃいいって思ってんのな。変わってねえじゃん、クソが」
そして、いきなり襟を掴まれた。
ぐっと引き寄せられ、壁に押しつけられる。
「喋れよ、何か言えよ、クズ」
頬に何かが当たった。乾いた音。拳ではない。手の甲。
だが容赦はなかった。鼻先で血の匂いがにじむ。
「おれ、さ……最近マジで限界でさ……」
そう言いながら、蒼翔はポケットから金属製のペンライトを取り出した。
それを指の間で弄びながら、悠翔の顎を強引に持ち上げる。
「こいつ、見覚えある? 中学のとき、おまえが喉に突っ込まれたやつ。覚えてるよな?」
胸の奥が凍りつく。忘れたかった記憶が、音もなく引きずり出される。
蒼翔は笑った。けれどその笑いに、もはや理性は残っていなかった。
「おれが、ずっと教えてやってただろ。“兄弟”ってのがどうあるべきか」
ライトがゆっくりと、悠翔の喉元に押し当てられる。
金属の冷たさが、皮膚の上から奥にまで突き刺さるようだった。
「服、脱げよ。確認すんの、前からだし。なぁ? 変わってねぇなら、見せられるよな?」
悠翔は、息を詰めたまま首を横に振る。
だが、その行為すら蒼翔を逆撫でにするだけだった。
「チッ……じゃあ、こっちから脱がせりゃいいか」
シャツのボタンが乱雑に引きちぎられていく音が、部屋に響いた。
皮膚の上に爪が食い込み、布が裂かれる感触だけが生々しく残る。
「見ろよ、ほら……やっぱ“おれの”だよな。管理しないと、こうなる」
触れる。押さえつける。撫でるふりをして抉る。
そのすべてが、所有の再確認だった。
悠翔は無抵抗のまま、視線を天井に向けていた。
そこに答えはないと知りながら、見ないふりをする以外に術がなかった。
「……次は、ちゃんと準備しとけ。逃げんなよ」
蒼翔はそう吐き捨て、ズタズタになったシャツのボタンを足で踏みつけて帰っていった。
扉の音がしても、悠翔は動けなかった。
吐く息が震え、喉の奥で何かが擦れていた。