その後涼平もカフェを出た。
自転車の鍵を解除しながら涼平は悶々としていた。
(あいつは一体誰なんだ?)
そんな思いが頭の中をぐるぐると駆け巡り、西田が詩帆に名刺を渡していた事が気に入らなくてイライラしていた。
(ライバル出現か?)
涼平は今自分に起きている危機に気づくと、急いで自転車に跨り菊田の店へ向かった。
菊田の店に着くと、ちょうど昼時とあって店内は賑わっていた。
涼平は店へ入るとすぐにカウンター席に座った。
そこへ、菊田がお冷を持って来て言った。
「涼平いらっしゃい! この間のパーティーはありがとうな!」
そして涼平にオーダーを聞く。
涼平はロコモコを注文した後、菊田を捕まえて言った。
「菊田さんーん! 恋のライバルが現われたらどうしたらいいんでしょう?」
いきなり涼平がそんな事を聞いたので菊田は目を丸くして驚いていたが、急にガハハハと笑う。
「涼平ちゃんよー、どうしちゃったの? もしかして詩帆ちゃんに言い寄る男が出てきたとか?」
「いや、まだそこまでは行ってないと思うんですが、とにかく俺とは真逆のタイプの男みたいで心配で心配で」
それを聞いた菊田がまたガハハハと笑った。
「菜々子ちゃんの時はそんな事一回もなかったのにどうしちゃったんだー? 菜々子ちゃんが違う男と飯食いに行っても飲みに
行っても全然気にしなかったお前さんが、なんでそんな事になっちゃってるんだ?」
涼平は俺の方が聞きたいですよという顔をして言う。
「なんなんでしょう? とにかく彼女の事が気になっちゃって心配でしょうがないんっすよー」
涼平は泣きそうな顔をしているので、菊田は笑顔で言った。
「それが『恋』っていうもんよ。良かったな、お前もまたやっと恋ができるようになったっていう訳だ!」
菊田は涼平の顔を感慨深げに見つめてから、またガハハハと笑いながら奥の厨房へ戻って行った。
その頃、詩帆は少し早めの休憩をとっていた。
奥の休憩室でサンドイッチを食べながら、先程西田から貰った名刺を見ていた。
そこには、
『横浜女子美術大学芸術学部・美術科・グラフィックデザイン専攻准教授』
と書かれていた。
「先生准教授になったんだ。若いのに凄いわ」
詩帆が先ほど話をしていた西田は、詩帆の大学へ講師として来ていた西田拓也だった。
年齢は三十四歳。涼平と同じ年だった。
イラストレーターとしてもそこそこ有名で、雑誌や書籍などの挿絵や菓子のパッケージ等でたまに西田のイラストを目にする事
がある。
西田の話によると、このカフェの近くにある大学に招かれて来月から講座を持つ事になったらしい。
今日はその大学へ挨拶に来ていたようだ。
詩帆の大学に来ていた時は、西田はまだ26~27歳だった。
いつもジーンズを履いたカジュアルな服装だったが、今日はスーツを着ていたので詩帆は一瞬誰だかわからなかった。
「懐かしいなー」
詩帆はそう呟きながら西田の名刺をバッグにしまう。
そして残りのサンドイッチを食べ終えると、午後の仕事に戻っていった。
その頃、涼平はまだ悶々としていた。
菊田が持って来てくれたロコモコをスプーンでつついてはみるものの、全く口に運ばれていない。
そこへ、ちょうど加納が店に入って来た。
カウンターにいる涼平を見つけると、
「涼平、珍しいな。昼時に来るなんて」
そう言って涼平の隣に座る。
「先輩こそ日曜日に一人ですか? 珍しいですね」
「ああ。今度早紀の妹が結婚するんだよ。で、今日はウエディングドレスを見に行くのについて来てくれって言われて更紗も一
緒に行っちまった。だから俺は寂しく一人メシよ」
加納は嘆くように言ったので、思わず涼平が笑う。
そこへ菊田がお冷を持って来て加納に言った。
「おーっ、加納ちゃんちょうどいい時に来てくれた。涼平の恋の悩みを聞いてやってくれ。俺が聞いてやりたいんだが、昼の一
番忙しい時に来られてもなぁ……」
菊田はそう言い残して笑いながらまた厨房へと消えて行った。
「おいなんだ? 恋の悩みって」
そこで涼平は朝カフェで起きた事を加納に伝える。
聞き終えた加納はいきなり派手に笑ってから言った。
「おいおいマジかよー! 辻堂界隈のサーファーの中では1、2を争うモテ男の涼平ちゃんが、一体どうしちゃったのよー!」
そう言って、加納はまた腹を抱えて笑い出した。
「先輩、笑いごとじゃないっすよ! ピンチですよ大ピンチ!」
涼平が真剣に言ってもまだ加納は涙を流して笑っている。
やっと笑いが収まったところで、加納は涙を拭きながら言った。
「別にただ立ち話をしていただけなんだろう? それなら何も問題ないじゃないか」
「いや、でも名刺を渡していました。男が仕事以外で名刺を渡すっていうのは、つまり連絡くれって事でしょう?」
「うん、まあ確かに……そういう意味もあるわな」
「でしょーっ! ほらやっぱり大ピンチじゃないですか!」
「いやいや落ち着け。単に昔の知り合いっていうだけかもしれないじゃないか。それにあの詩帆ちゃんが、名刺を貰ったからっ
てほいほい連絡すると思うか?」
涼平は確かに…と思う。
しかし詩帆は過去に加藤との件もあるので、一概に大丈夫とは言えなかった。
それに加藤の件は加納には話していないのでそれ以上何も言えなかった。
そこで加納が言った。
「とにかくおまえらは付き合う事にしたんだろう? だったら詩帆ちゃんの今の彼氏はお前なんだからお前は堂々としていれば
いいんだよ。ここで何か変な事をしでかして愛想でもつかされてみろ。その方が別れるリスクが高まるんだからな。とりあえず
、その男よりも常にいい男でいられるよう自分を磨け!」
加納はそう言って涼平の肩をバシッと叩いた。
涼平はイテーッ! と言いながら、
(あいつよりもいい男でいる……か)
心の中でそう呟いた。
コメント
2件
イケメンモテ男なのに、詩帆ちゃんのことになると 心配でたまらない 「恋する男子」涼平さん、可愛い~💖🤭 詩帆ちゃんが 自然体で 素の自分をさらけだせるのは涼平さん只一人だから、大丈夫だと思うけれど....✨ 涼平さん、ライバルに負けないよう自分磨き 頑張って✊‼️ 頻繁に連絡を取りあい、二人の関係もより深めていけたら良いですね🍀✨
モテモテ🏄涼平さんだけど、まだ詩帆ちゃんと付き合いたてだから尚更心配なんだよね🥺⤵️ 菊田さんも加納さんも涼平さんの久し振りの恋を見守ってくれてる優しさをすごく感じる〜🥰👍 加納さんのアドバイス通り自分磨きでもっと詩帆ちゃんを惹きつけてみるのもアリだし、ドンと構えて詩帆ちゃんを包み込んであげるのもいいと想うな〜🤭💓🌸