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休日のショッピングモール。映画を観終えたばかりの二人は、フードコートで軽く食事をしていた。大地はポテトを片手に、いつもの調子で楽しげにしゃべり続けている。
「なあ隼人、今日の予告編のやつ、めっちゃ面白そうじゃなかった? 今度また一緒に観ようぜ!」
明るい笑顔に、周りの喧騒さえもかき消されるようだった。けれど隼人の胸の奥には、小さな棘のようなざらつきが残っている。映画の後、たまたま同じ学校の女子に声をかけられ、大地が気さくに話していた。その光景が頭から離れないのだ。
「……別に、俺じゃなくてもいいんだろ」
思わずこぼれた言葉に、大地がきょとんとする。
「え? なにそれ」
「誰とでも仲良くできるじゃん。今日だって……」
隼人が言い淀むと、大地は少し考えてから、声を立てて笑った。
「お前さ、それ嫉妬ってやつ? 隼人がそんな顔すんの、なんか新鮮だな」
大地は軽く受け流そうとする。けれど隼人の視線は真剣だった。
「……俺は、大地が他の誰かと楽しそうにしてんの、あんまり好きじゃない」
素直すぎる告白に、大地は一瞬言葉を失う。いつもの調子なら、冗談でごまかすところだ。だが隼人の沈んだ表情が、それを許さなかった。
沈黙が落ちる。フードコートのざわめきが、妙に遠くに聞こえる。
「……悪かった。俺、考えなしに話しかけすぎたな」
ぽつりと大地が言う。その声音は珍しく真面目で、隼人の胸を締めつける。
「いや、謝ることじゃ……」
「でもさ、俺は隼人といるときが一番楽しいよ」
笑みを浮かべてそう言い切る大地の目には、ふざけた色はなかった。
隼人は胸の奥の棘が、ほんの少し抜けていくのを感じた。それでもまだ、痛みの跡は残っている。自分の中に芽生えた独占欲の強さに、戸惑いを隠せないまま。
「……なら、いい」
小さく呟いた声を、大地はちゃんと聞き取っていた。
そして二人の間に、これまでとは違う緊張が生まれていた。