テラーノベル
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更衣室の空気が戻らないまま、チャイムが鳴った。
「なあ」
最初に声を出したのは、さっき腕を掴んだ男子だった。
「これ、他の奴らにも見せた方がいいよな」
返事は要らなかった。
もう決まっている。
廊下に出た瞬間、遥の背中を拳で殴る。
「止まんな」
「逃げるなよ」
肩甲骨のあたりに、もう一発。
鈍い衝撃が走り、息が詰まる。
(……来る)
教室前。
別クラスの連中が、すでに集まっていた。
「マジでやばいらしいぞ」
「身体、あんななんだって」
噂は、説明を伴わない。
断片だけが、都合よく膨らむ。
「ほら、本人」
誰かが遥の首元を掴み、前に突き出す。
「説明してやれよ」
「どうしてこうなったか」
遥が口を開く前に、腹を蹴られた。
「しゃべんな」
「気持ち悪い声出すな」
膝が折れかける。
だが、床に倒れる前に、髪を掴まれて引き起こされる。
「倒れたら楽になると思ってんの?」
「甘えんなよ」
周囲から笑いが漏れる。
「サンドバッグじゃん」
「殴っても文句言わねぇし」
誰かが言った、その直後。
右から拳。
左から蹴り。
背中に肘。
順番も、理由もない。
「ほら、殴り返せよ」
「抵抗しないと“同意”だぞ?」
遥の腕が持ち上げられる。
無理やり、拳を作らされる。
「殴れ」
「殴らないなら、続ける」
目の前に、顔が近づく。
遥は、震える声で言った。
「……ごめん……ごめんなさい……」
それが合図だった。
「ほらな」
「謝った=認めた」
顔を殴られる。
頬骨に、はっきりとした痛み。
視界が揺れる。
「ほら、まだ立ってる」
「丈夫だな」
太腿を蹴られる。
力が抜け、今度こそ膝が床につく。
「立て」
「許可してねぇ」
髪を掴まれ、引きずり起こされる。
遥の口から、言葉が溢れる。
「ごめん……やめ……ごめん……俺が……悪かった……」
自分でも止められない。
誰かが、冷たく言う。
「な?」
「これ、本人も納得してる」
誰も反論しない。
殴る。
蹴る。
掴む。
突き飛ばす。
それが、次の“日常”として確定していく。
遥の中で、一つだけはっきりする。
(……もう)
(これ、今日だけじゃない)
次は、放課後。
次は、別の場所。
次は、もっと人数が増える。
謝れば謝るほど、
殴られる理由が整っていく。
遥は、声が枯れるまで謝り続けた。
誰も、止めなかった。
コメント
1件
いや、読み終わってしばらく動けなかったわ…。第19話、胸が締め付けられる展開だった。「謝った=認めた」ってロジックがもう、見てられなかった。遥が必死で謝るほど殴られる理由が整っていく構造、地獄だよ。誰も止めない日常として確定していく無力感がリアルで、読んでて拳握ったわ。ruruhaさんのこの空気の描き方、容赦なくてすごい。次、どうなっちまうんだ…(震え)。