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「失踪者、三人」
玲は、ホワイトボードに名前を書いた。
連続失踪事件として処理された三件。
年齢も職業も、生活圏も違う。
「共通点はない、ってされてたよね」
燈が言う。
「表向きはな」
玲は淡々と続ける。
「でも、不正事件の資料を横断すると、
全員、同じ場所に辿り着く」
「場所?」
澪が小さく首を傾げる。
「“関与の深度”です」
玲は、不正事件側の資料を並べた。
内部告発者。
証言者。
帳簿を扱った人物。
名義を貸した人間。
「失踪者三人は、
不正を“成立させた側”にいた」
「主犯じゃない」
真琴が言葉を継ぐ。
「でも、いなければ成立しなかった」
「はい」
玲は頷く。
「使われた人たちです」
部屋の空気が、少しだけ重くなる。
木津が口を開いた。
「黒瀬恒一は?」
「彼も、同じ位置にいます」
玲は、黒瀬の名前を円の中に書く。
「ただし、違う」
燈が眉をひそめる。
「何が」
「彼だけ、
“全部”を見ていた可能性がある」
証言の流れ。
誰がどこで嘘をついたか。
どの時点で不正が確定したか。
「黒瀬は、
真犯人に辿り着けた」
「じゃあ、なんで黙った」
燈の声は、苛立ちを含んでいた。
「自分が捕まるって分かってたから?」
「それだけじゃない」
木津が静かに否定する。
「彼は、自分が使われる側だと分かってた」
真琴は、少し考えてから言う。
「語った瞬間、
話は“黒瀬の証言”になる」
「そうだ」
木津は頷く。
「そうなれば、
不正の全責任は彼に集まる」
真犯人は守られる。
組織は傷つかない。
一人だけが、すべてを背負う。
「それでも語る人はいるよ」
燈が言う。
「正義感とか、復讐とか」
「黒瀬は、そういう人間じゃない」
木津の声は、断定に近かった。
「彼は――
結果を見てしまう人間だ」
語った先に、何が起きるか。
誰が切られるか。
誰がまた“歪める役”になるか。
「久我が、そうなるって?」
澪の問いに、木津は答えなかった。
だが、沈黙が肯定だった。
真琴は、胸の奥が静かに冷えるのを感じた。
父も、同じ場所に立っていた。
踏み込めば、誰かが壊れると知りながら。
「……黒瀬は」
真琴は、ゆっくり言う。
「自分が捕まることで、
話を終わらせたんだ」
「終わらせた、というより」
玲が言葉を選ぶ。
「“固定した”」
真実が使われないように。
これ以上、誰も巻き込まれないように。
「それってさ」
燈が低く呟く。
「守ったってことじゃねえの」
誰を、とは言わない。
でも、皆分かっていた。
木津は、少しだけ視線を落とした。
「警察は、
黒瀬を有罪にした」
それは事実だ。
「でも、
黒瀬が“全部を背負った理由”までは
裁けない」
真琴は、静かに立ち上がる。
「……これさ」
皆を見る。
「連続失踪と不正事件、
繋がってるって言っていい?」
玲は首を振る。
「まだ、断定はできません」
一拍置いて、続ける。
「でも――
同じ“選択”が、繰り返されている」
踏み込まない。
語らない。
終わらせる。
真琴は、はっきり理解した。
これは、
真実を暴く話じゃない。
「使わない真実を、
誰が引き受けたか」
その物語だ。
机の上に、父の手帳のコピーが置かれている。
最後のページは、やはり破られていた。
「次、行こう」
真琴は言う。
「もう分かった。
ここ――」
指先が、ある一点を指す。
「本当に危ない」
それでも、引き返さない。
そう決めた目だった。