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机の上の古びた蛍光灯が、チカチカと瞬いている。 ドアがゆっくり開いて、制服姿の女子が入ってきた。
かばんを抱きしめたまま、視線を床に落とす。
「……あの」
「ん」
「私……自分のことが、嫌いで」
声は小さかった。
日下部はペンをくるくる回していた手を止める。
「どんなとこが」
「全部。顔も、性格も。誰かと比べてばっかで……“どうせ私なんか”って思って、気づいたら勝手に自分を見下してる」
彼女の声は、机の端に吸い込まれるみたいに弱い。
「友達の前では笑ってるけど、帰ったら後悔ばっか。あんなこと言わなきゃよかったとか、なんで私ってこうなんだろうとか……。眠る前に思い出して、死にたくなる」
言葉の最後が震えた。
日下部は椅子の背にもたれ、長く息を吐く。
「……嫌いな自分、か」
「そう。……日下部くん、自分のこと好き?」
「は? ……そんなわけねぇだろ」
女子は驚いたように顔を上げる。
日下部は、机の上に置いた拳で小さくトントンと音を立てる。
「毎日、誰かに言わなきゃよかったことばっか思い出すし、鏡見るたびにため息出る。……好きだなんて、一度も思ったことねぇよ」
女子の瞳が揺れる。
「……じゃあ、どうして……平気そうに見えるの?」
「平気じゃねぇ。……でも、嫌いなままでも、生きれるってだけだ」
彼の声は低いけど、真っ直ぐだった。
「“好きになれ”なんて言えねぇよ。そんな魔法みてぇなこと、俺もできねぇし。……でもさ、嫌いなとこごと抱えて、今日まで立ってる。それで十分なんじゃねぇの」
女子は黙って机の木目を見つめる。
涙は出ない。ただ、ほんの少し肩の力が抜けたように見えた。
「……嫌いなままでも、生きてていいの?」
「……当たり前だろ」
その返事は、乾いた部屋の空気を少しだけあたためた。
女子は、ゆっくりかばんを抱き直した。
「……私、ずっと、“変わらなきゃ”って思ってた。嫌いなままじゃダメだって」
日下部はしばらく黙ってから、ぼそっとつぶやく。
「変わんなくても、嫌いな自分を連れて歩いてる時点で……お前、十分強ぇと思うけどな」
女子は目を瞬かせる。
「……強い?」
「嫌ってるやつと一緒に生きてんだぞ。……それって、誰にでもできることじゃねぇよ」
女子の手が、かばんの紐をぎゅっと握る。
ほんの少しだけ、泣き笑いのような表情が浮かんだ。