テラーノベル
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「……あの、日下部くん」
相談室に入ってきた男子は、ちょっと恥ずかしそうに頭をかいた。
「俺、部活で大会に出たいんだけど……正直、自信がなくて」
「大会?」
日下部は椅子にもたれながら眉を上げた。
「出たいなら出りゃいいじゃん」
「それが簡単にできたら苦労しないんだよ!」
男子は思わず声を上げてから、気まずそうに視線を落とした。
「周りは強いし、俺なんかが出ても迷惑かなって……。でも、本当はやってみたいんだ」
日下部は少し黙ってから、机に肘をついた。
「……やりたいんだろ?」
「……うん」
「だったら、迷惑とか考える前にやってみろよ。出るだけで経験になるし、やらなかったら絶対後悔すんぞ」
男子は息をのんだ。
「……でも、負けたら……」
「負けてもいいじゃん」
日下部はあっさり言った。
「負けんのが怖くてやめるほうがダサい。挑戦して負けたなら、まだ前に進めるだろ」
男子は目を見開いたまま、少し笑った。
「……なんか、日下部くんに言われると腹立つけど、納得しちゃうな」
「別にお前を持ち上げたいわけじゃねぇ。ただ……やりたいなら、その気持ちはちゃんと信じろ。
後から『やっときゃよかった』って思うのが、一番キツイから」
男子は深く息をつき、うなずいた。
「……わかった。やってみる」
日下部はふっと笑みをこぼす。
「おう。やれること全部やってこい。……結果はそのあとでついてくる」
夕焼けが差し込む窓の外で、部活帰りの声が響いていた。
その声は、これから挑戦に向かう誰かの背中を押しているように聞こえた。