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朝から、教室には入らず生活指導室へ行けと言われていた。ドアを開けると、担任と生活指導の教員が二人、机の向こうに座っている。
椅子は一脚だけ、俺のために用意されていた。
座った瞬間、逃げ場のない空気に包まれる。
「君の件で、学校の評判が下がっている」
担任の言葉は、俺の事情じゃなく学校の顔を守る話から始まった。
「映像は消したほうがいい。だけど、君がああいうことをしていた事実は消せない」
“していた”──。
俺がしたわけじゃないのに、もうそう決められていた。
生活指導の男が、腕を組んで続ける。
「被害を主張するのは自由だが、周囲からは“演技”や“同意”と取られることもある」
つまり、お前のせいにもできるってことだ。
どれだけ否定しても、俺の声はここでは意味を持たない。
「保護者にも説明する。だが、波風を立てないように話すから安心しろ」
安心?
それは、俺を守る安心じゃなく、学校を守る安心だ。
担任は最後に、まるでアドバイスのように言った。
「教室では大人しく過ごせ。反発すれば余計にからかわれるだけだ」
部屋を出ると、廊下に同じクラスのやつらが数人立っていて、
俺を見てひそひそ笑った。
「お疲れ様、スター」
俺の肩を叩くやつの手は、妙に重い。
教室に戻ると、席には落書きが増えていた。
机の表にも、横にも、
「ビデオスター」「ヤラれ役」「お礼は?」
消そうとしても、マジックの線は深く、爪でこすっても落ちない。
もう、これは冗談や一時的ないじめじゃない。
制度も、教員も、クラスも、家も、全部が俺を“そういう存在”として固定している。
俺の中の「まだ戻れるかもしれない」という小さな可能性は、
今、この日、この瞬間に完全に潰された。
笑い声が遠くで響くたび、俺の名前じゃなくても反射的に肩が震える。
自分が壊れる音が、体の内側でゆっくりと鳴っていた。