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瑠璃マリコ
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桃下結衣
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それから三年の月日が流れた。
この夜、司と沙夜のマンションには、両家の家族が集まっていた。
部屋の中では、三歳になった彗が元気いっぱいに走り回っている。
ひとしきり駆け回ったあと、彗は妹の眠るベビーベッドへ向かい、安らかな寝顔を覗き込む。
その表情は、嬉しさを隠しきれない笑顔だった。
それから沙夜は、二年ほど避妊をしていたが、再び司との子供を望むようになった。
ほどなくして妊娠が判明し、沙夜は無事に第二子の出産を迎えた。
出産の際、司はもう二度と沙夜をあのような目に遭わせたくないと、大学病院への早めの入院と計画出産を選んだ。
何かあったとき、すぐに対応できる環境を望んだのだ。
万全の準備を整えて臨んだ出産は何の問題もなく、沙夜は無事長女を授かった。
司は、愛すべき大切な娘に“架音”と名付けた。
“架”はあの世とこの世をつなぐ架け橋。
“音”は――沙夜が聞いた、あの声。
道を誤りそうになった沙夜を引き止めてくれた実母の声。
そして、沙夜をあの世からこの世へ送り返してくれた義母の優しい歌声。
そのすべてを、この名に込めたのだ。
司からこの名前を提案されたとき、沙夜は涙を流して喜んだ。
「さて、可愛い孫娘・架音も生まれたことだし、そろそろ発表するとしようか……」
義父の言葉に、沙夜はきょとんとした表情を浮かべ、司の方を振り返った。
「発表……? 何のこと?」
司はすでに知っているらしく、にこにこと笑っている。
沙夜の両親も事情を知っているようで、嬉しそうに微笑んでいた。
「沙夜ちゃん、実はね、ついに我が社の彗星探査機の打ち上げ日が決まったんだよ」
「えっ?」
突然の知らせに、沙夜は思わず声を上げた。
西園寺コンチェルンが宇宙開発事業へ乗り出し、過去に何度か失敗していることは知っていたが、まさか次の打ち上げが目前だとは思いもしなかった。
驚く沙夜に、実父・稔が穏やかに続けた。
「沙夜、ロケットの名前はね、西園寺のお父上が彗と架音の名前を取って“彗音”にしてくださったんだ。素敵だろう? 一生の記念になるぞ」
「“彗音”? まあ……素敵!」
沙夜は胸がいっぱいになった。
広い宇宙を旅する探査機に、我が子の名が刻まれる――その事実が心を震わせた。
司の父が、感慨深げに言葉を重ねる。
「ははっ、“彗音”。いい名前でしょう? 我が社の彗音はね、やがて宇宙に響き渡る“音”……つまり、すべての可能性拾い、未来へとつなげていく……。今度は絶対に成功させてみせるよ。沙夜ちゃん、君が素晴らしい孫を二人も生んでくれたおかげで、私もやる気が湧いてきてね……本当に感謝しているよ。ありがとう」
義父は目を潤ませながら沙夜に言った。
生まれたばかりの架音は、どことなく司の亡き母に似ていた。
まるで生まれ変わりのよう――皆がそう感じている。
それも義父の胸を熱くしているのだろう。
「お義父様、探査機の打ち上げ決定、おめでとうございます。“彗音”の打ち上げは、きっと日本の宇宙開発の立派な架け橋になることでしょう」
「ありがとう。実はね……この開発事業にはまだ続きがあるんだ。つい先日決まったんだが、今後はアメリカとの共同開発にも乗り出すことになったんだよ」
沙夜の父が驚いて声を上げた。
「それって、いよいよロケットの共同開発ですか?」
「そうなんだよ。それも、有人ロケットだ!」
「まあ、すごい!」
義母も興奮した声を上げる。
「お義父様、すごいわ。宇宙開発事業がどんどん軌道に乗ってるのね……」
沙夜が隣にいる夫に語りかけると、司は満足げにうなずいた。
「過去に二度も失敗して諦めかけていたけど、孫の顔を見た途端、やる気が戻ったらしい。だから、本当にすべて沙夜のおかげなんだよ。ありがとう」
「そんな……私は何も……」
でも、もし本当にそうなら――
自分が西園寺家の嫁として、少しでも役に立てているのかもしれない。
そう思うと、沙夜は胸の奥が熱くなる。
そのとき、山下がいそいそと姿を現した。
「さあさ、お料理の準備が整いましたので、どうぞ、皆様こちらへ」
「山下さん、ありがとう」
「話に夢中で、空腹だったのを忘れていたよ」
「食事をしながら、ぜひ今後の抱負も聞かせていただけませんか?」
沙夜の父と義父は意気投合し、ワインを片手にテーブルへ向かう。
義母は見事な山下の料理に感動し、作り方を熱心に尋ねていた。
沙夜がベビーベッドを振り返ると、彗が妹にぬいぐるみを見せてあやしている。
どこを見ても、どこに目を向けても、そこには有り余るほどの幸せが満ちていた。
そのとき、司がそっと沙夜の手を取り、エスコートするように歩き出した。
歩きながら、司は沙夜の耳元で囁く。
「沙夜、君は僕にはもったいない奥さんだ。愛してるよ……」
「ふふっ、ありがとう。私も……愛してるわ」
沙夜はまっすぐ司の瞳を見つめ、優しく微笑む。
司もまた、愛おしげに妻の瞳を見つめ返した。
沙夜は胸の奥で、あの世にいる二人の母へ向かって静かに感謝を告げる。
(ありがとう……二人のお母さん……)
賑やかな笑い声が響くタワーマンションの窓の外には、きらりと光る流れ星が、立て続けに二つ、夜空を駆け抜けていった。
それは大きな弧を描きながらひときわ鮮やかなきらめきを残し、ほんの一瞬で夜空へ溶けていった。
<了>
初めてのタイムリープものでしたが、楽しんでもらえたでしょうか?
連載開始から約一か月。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
瑠璃マリコ🌌
コメント
100件
マリコ様完結おめでとうございます🎉不思議な体験をして心の芯をみると言う事 ご先祖様はいつも見守ってくださる事 そして素直に生きる事 いろいろ生きていく上で大切な事を沢山教えてくださったお話と私は感じました ありがとうございました 次作はどの様なお話なのでしょうか?今からとても楽しみです😊マリコ様またよろしくお願い致します🤲
そろそろ完結なのかも⁉️でも少し早いかな⁉️と思いましたがきれいな流れでの完結✨ありがとうございました😊🌷 いつもより少し短め?の感はありましたが、タイムリープはお初なのでワクワクドキドキ💓でした!! マリコ先生はもう次作の構想がたくさんあるようですが個人的には他の方もおっしゃっているように、今村さんヒーロー作が楽しみですね〜〜😏💖 暑い中の執筆📝💻本当にお疲れ様でした✨🥰

マリコ先生完結おめでとうございます。また素敵な作品に出会えた事に感謝です。お疲れ様でした