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#大人の恋愛
Jasmine
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それから、三か月の月日が流れた。
季節はすっかり冬になっていた。
あの日以来、七星は仕事を辞め、療養に専念しながら、少しずつ古民家カフェの計画を進めていた。
幸い、生活費は自分で貯めた預貯金があるため、当面は困らない。
父から受け取った遺産も、カフェの資金に充てるつもりで手をつけずに残している。
週に一度は、高校時代の親友・美紅が様子を見に来てくれる。
杉本主任もときどき顔を出してくれるため、不安はなかった。
通院の際には野中院長や元同僚たちとおしゃべりをして帰り、七星は無理をせず、静かな生活を送っていた。
この日も、術後の定期検診のため、七星は湊総合病院を訪れていた。
会計を待っていると、ちょうど休憩に入った百花が七星を見つけ、ぱっと駆け寄ってくる。
「七星! 検診、どうだった?」
「あ、百花、お疲れ! 順調だったよ」
「良かった。七星にしてはすごくおとなしくしてるもん。当然だよね〜」
「それじゃあ前は私が暴れてたみたいな言い方じゃん」
「だってそうだもん! バイクにまたがるじゃじゃ馬娘~!」
「こらぁ~っ!」
ちょうどそのとき名前が呼ばれたので、七星は笑いながら立ち上がり会計を済ませた。
病院の出口まで、百花が一緒に歩いてくれる。
「ところでさあ、明日、涼真さんと三回目のデートなんだけどぉ、何着ていったらいいと思う?」
そう聞かれた七星は、立ち止まって考え込む。
「一回目はファミレスで食事、二回目は海辺のドライブだったよね?」
「そうそう」
「じゃあ、三回目はいよいよバイクかな?」
「えっ、バイク?」
「うん。涼兄が一番好きな乗り物はバイクだから、きっと後ろに乗れって言ってくると思うよ」
「マジで? それって急接近じゃん」
百花は急にそわそわし始めた。
「急接近っていうか、腰につかまるだけなんだけどね」
「キャ~ッ! それってボディタッチじゃ~ん!」
「いや、振り落とされないためにつかまるだけなんだけど……」
「恥ずかしいっ! 三回目で抱きつくなんて、ああっ、恥ずかしいっ! でもやりたいっ!」
本音を漏らした百花に、七星がニヤニヤしながら言った。
「……ってことはさ、すでに涼兄に惚れてるってこと?」
「キャ~ッ、何聞いてんのよ、恥ずかしい〜」
どうやら百花は涼真にすっかり惚れ込み、涼真の方も百花を気に入っているようだった。
「はいはい。おのろけはその辺にしてくれないと、また頭の血管切れちゃうから……」
「何、その言い方! 人が必死に相談してるってのに」
「ふふっ、まあ頑張って! うまくいくのを祈ってるよ」
「ありがと! あ、そういえばさ、またうちの病院に新しい先生が来るんだって」
「そうなんだ。そういえば、脳神経外科を独立させて新しい病院を作るって話……あれ、本当だったんだね」
「そうそう。野中先生、お金持ちだよね〜。っていうか、野中先生のパパか! この街には一つもなかった脳神経外科専門病院を作ってくれるなんて……こりゃ表彰もんだよね」
「で、その今度来る先生が、新しい病院に行くの?」
「そうみたい。開院は夏だから、それまでは湊総合病院で働きながら準備するらしいよ。どんな先生だろう? 超イケメンだったら、涼真さんと悩んじゃう!」
「あ~っ、浮気者! 涼兄に言っちゃうぞ」
「やめて~冗談だよ~。でも、新しい病院、楽しみだね!」
「うん。脳に特化した病院なら、もし私がまた倒れたらそこに行けばいいんでしょう?」
「ダメダメ! 七星はもう倒れちゃダメなんだから〜。それより、尾崎先生とはその後どうなの?」
そう聞かれた七星は、冬枯れの木々を見つめながら答えた。
「連絡は取ってるよ。でも、なんかすごく忙しそう」
「そりゃそうだよね~、なんたって名医だもん。次から次へ手術で、いっぱいいっぱいなんじゃない?」
「そうだと思う」
少し元気のない七星を見て、百花が優しく言った。
「大丈夫だよ。暇になったら会いに来てくれるから。それまで、いい子にして待ってろって言われたんでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、先生を信じなさい! 恋には信じる気持ちが大事なんだから」
偉そうに言う百花に、七星はふふっと笑いながら言い返す。
「なによ、明日着ていく服で悩んでたくせに」
「あっ、そうよ、それ! バイクってことは、やっぱジーンズだよね?」
百花の嬉しそうな表情を見つめながら、七星は優人と初めて出会った春の日を懐かしく思い返していた。
その頃、優人は大学病院での引継ぎに追われていた。
優人は今月末で大学病院を退職する。
これからの人生は七星のそばで過ごしたい――そう決意し、三か月前に退職届を出してから今日まで、引継ぎに追われていた。
“神の手を持つ若手医師”と呼ばれた優人が大学病院を去ることは、周囲から惜しまれた。
しかし優人の意思は固く、上司や同僚たちも今では引き留めるのを諦め、協力してくれている。
「大丈夫だよ。お前がいなくなったら、俺が第二の“神の手を持つ若手医師”になるからさ。まあ、お前と一つ違うのは、“超イケメン”がつくってことだろうなぁ。あはは」
茶化すように言う宏太だったが、優人の新たな門出を一番応援してくれているのも彼だった。
大学病院を辞めたあとは、もちろん千葉へ行く。
しかし、湊総合病院で働くわけではない。
野中院長の父が新たに立ち上げる脳疾患専門の「湊脳神経外科病院」。
そこで優人は、脳神経外科部長に任命されたのだ。
救命救急も受け入れ、高度な手術も可能な24時間体制の病院。
そのオープニングスタッフとして、優人は重要な役割を担うことになった。
このことは、まだ七星には話していない。
いきなり行って驚かせようと、優人は密かに企んでいた。
だから七星には“毎日手術で忙しい”とだけ伝えている。
(ふっ、七星、驚くだろうな)
その日のことを想像すると、優人の頬が自然と緩む。
昼休み、七星の驚く顔を思い浮かべながら、優人は食堂へ向かっていた。
途中、女性の声が優人を呼び止めた。
「あ、あの……尾崎先生!」
振り返ると、そこには麗華が立っていた。
少しばつの悪そうな表情で、優人のそばまで歩いてくる。
「水口さん、何か?」
「あの……私、ずっと謝ろうと思ってて……その……」
麗華の言わんとすることを察した優人は、穏やかに言った。
「もういいですよ。済んだことですから、気にしないでください」
「でも……」
戸惑う麗華に、優人はすがすがしい笑顔で言った。
「僕は近いうちに千葉へ行きます。僕がいなくなったあとの医局を、よろしくお願いしますね」
てっきりなじられると思っていた麗華は、肩透かしを食らったように驚き、目を大きく見開いた。
そして、慌てて返事をする。
「わ、分かりました」
「じゃあ、お昼行ってきます」
優人が軽く会釈をして立ち去ろうとしたそのとき、麗華は思わず声を上げて引き止めた。
「あのっ……一つ聞いてもいいですか?」
優人は足を止め、静かに振り返る。
「何でしょう?」
「先生は……彼女に……奥様の面影を見ているだけなんじゃないでしょうか? 亡くなった美奈子さんの面影を……」
その問いに、優人はふっと微笑み、落ち着いた声で答えた。
「いいえ、違います。たしかに彼女は美奈子によく似ています。でも僕は、美奈子とは正反対の彼女に恋をしたんです。顔はそっくりだけど、性格はまるで違う……僕はそんな彼女が、愛おしくてたまらないんです」
その言葉を聞いた瞬間、麗華の表情がさっと青ざめた。
負けを――はっきりと自覚したのだ。
「これで答えになってますか?」
「……は、はい」
「では、失礼します」
優人は軽く会釈し、食堂へ向かって歩き出した。
その後ろ姿を、麗華は呆然と見つめていた。
七星に――完全に敗れた。
その事実が胸の奥に重く沈み、麗華はただその場に立ち尽くすしかなかった。
優人は廊下を歩きながら、ご機嫌な様子で小さくつぶやいた。
「顔はそっくりだけど、美奈子とは真逆の七星……僕は、妻とは正反対のキミに恋をしたんだ……」
優人はふっと笑みを浮かべながら、軽い足取りで前へ進んでいった。
コメント
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百花ちゃんと涼真くん❤️上手く行ってるようで良かった🤗 疫病神さんはみんなにヤバい女認定されてるんですよ😁 七星ちゃん、優人先生の企みに驚いて喜ぶ姿が楽しみ〜🤩
『見た目はそっくりでも妻と正反対の君に恋をした』うんうん🙂↕️ホントに名言✨💖そしてようやく諦めた麗華。残念でした🤣 そして七星ちゃんは優人先生が手術で多忙と思ってるけど、近々優人先生が野中病院に戻ってくるのは知らないんだよねぇ、サプライズ😳登場❣️ 先生もお茶目だよねー🤭七星ちゃんはcafe Open☕️にも精を出してて🎶 2人の再会がとても楽しみ🫂💏🙌
今回は1話から読んでいますが、亡くなった奥さんと瓜二つの七星さんと出会って変わっていく優人先生がとても素敵です。 色々ありましたが、交際を申し込んで、また千葉の病院に戻って来て今後、七星さんのお父さんとお母さんのこととか、今後どんな展開になるのか楽しみにしています!