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チャイムが鳴ると同時に、教室のざわめきが一気に広がった。放課後。友達と遊びに行く者、部活に向かう者、それぞれが席を立つ中――
「なぁ隼人!一緒に帰ろうぜ!」
元気いっぱいにランドセル……ではなく、見慣れないブレザーのカバンを肩にかけ、大地が隼人の机に飛び込んできた。
「は?なんで俺なんだよ」
「だって、オレまだ道わかんないもん!駅まで迷子確定!」
「スマホで調べろ」
「それ言うと思った~!でもさ、スマホより隼人の方が頼りになるじゃん」
にかっと笑う大地に、隼人は視線を逸らす。
(……ああもう、こいつのその無邪気さが、妙に腹立つんだよな)
仕方なく一緒に昇降口へ向かうと、靴箱で偶然クラスメイトに声をかけられた。
「おー、隼人と大地、一緒に帰んの?」
「仲良しだなー!」
「違ぇよ!」
隼人が即座に否定する。
だが大地は悪びれもせず、「仲良し記念に写真撮っとく?」とおどけ、場をさらに盛り上げてしまう。
校門を抜け、二人きりになると、隼人は少し落ち着きを取り戻した。
「……おまえ、ほんと人懐っこいな」
「え?そうか?」
「初日からクラスに馴染んで……普通は気を使うだろ」
「気ぃ使ってんだよ!オレなりに!」
「どこがだよ」
「みんなが笑ってたら安心するじゃん?それでいいかなって」
さらりと口にする大地の言葉に、隼人は少しだけ息をのむ。
軽く見えて、本当はちゃんと周りを見ている――そんな一面を感じ取ってしまった。
「……だから、俺にもヘラヘラしてんのか」
「え?隼人にはしてないぞ?」
「は?」
「隼人はさ、ヘラヘラする前に笑わせたくなるんだよな。なんか、からかうと面白い反応するから!」
「……っ!」
耳の奥まで赤くなり、隼人は思わず歩幅を速める。
大地は慌てて追いかけてきて、ぴったり横に並んだ。
「おい、そんなに急ぐなよ!置いてかれたら泣くぞ!」
「……泣くわけねぇだろ」
「いや、オレが!」
「おまえがかよ!」
二人で同時に吹き出し、夕方の道に笑い声が響いた。
駅に着くころには、隼人の心の中の苛立ちは、不思議と和らいでいた。
むしろ――隣を歩く大地の存在が当たり前に思えてきている自分に気づき、胸の奥がざわついた。
「なぁ隼人」
「……なんだよ」
「明日も一緒に帰ろうな!」
「勝手に決めんな!」
「決まりー!」
大地は全力の笑顔で宣言した。
その眩しさに、隼人はまた顔を背けるしかなかった。