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ゆぴ
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スミレ
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遥は返事をしなかった。
ポケットの中のスマホがやけに重く感じる。
誰から来たのかなんて考えるまでもない。
だからこそ見られない。
見れば何か言われる。
見なくても言われる。
この家はそういう場所だった。
「出れば?」
颯馬が言う。
「別に止めねぇよ」
遥は睨んだ。
「うるせぇ」
「機嫌悪」
颯馬が笑う。
その笑い方が嫌だった。
何かを見つけた時の顔だった。
「最近さ」
ゲーム機を置く。
「余裕なくなったよな」
「知らねぇよ」
「前はもうちょいマシだった」
遥は答えない。
答えるだけ無駄だ。
だが黙っていても終わらない。
「学校で何かあった?」
怜央菜が言う。
遥は反射的に顔をしかめた。
その瞬間。
しまったと思う。
「へぇ」
沙耶香が笑った。
「何かあったんだ」
「別に」
「今の顔で?」
「うるさい」
空気が変わる。
晃司がソファにもたれたまま言った。
「口の利き方」
低い声だった。
遥は奥歯を噛む。
分かっている。
ここから先は何を言っても正解にならない。
「……悪かった」
「何が」
晃司。
「何に対して謝った」
「……」
「聞いてる」
遥は黙る。
答えれば揚げ足を取られる。
答えなくても怒られる。
昔から同じだ。
「最近、本当に面倒だな」
颯馬が立ち上がった。
テーブルの向こうから回り込んでくる。
遥は視線を逸らした。
「顔上げろよ」
「嫌だ」
「へぇ」
笑う。
次の瞬間、身体が大きく揺れた。
遥の身体がぐらつく。
反射的に手をつく。
颯馬は見下ろしていた。
「誰に向かって言ってんの」
遥は何も言わない。
言葉が喉に引っかかる。
腹の底では怒りが渦巻いているのに、出てくるのは沈黙ばかりだった。
「無視?」
「違う」
「じゃあ何」
「……もういいだろ」
その言葉に、颯馬の眉が動く。
遥はすぐ後悔した。
今日は駄目だ。
朝からずっと駄目だった。
学校でも。
家でも。
何もかも上手くいかない。
「もういい、ね」
颯馬は笑った。
楽しそうに。
「お前が決めることじゃないだろ」
遥は拳を握る。
逃げたい。
部屋へ行きたい。
一人になりたい。
けれど、この家ではそんな願いに意味はなかった。
ポケットの中でスマホがもう一度震える。
短い振動。
それだけで。
颯馬の視線がそちらへ向いた。
「また来た」
遥の背中を冷たいものが走る。
「誰なんだろうな」
わざとらしく言う。
沙耶香も怜央菜も黙って見ている。
晃司も止めない。
遥はスマホの上からポケットを押さえた。
その動作が。
自分でも分かるくらい不自然だった。
そして、その不自然さを。
この家の人間が見逃すことはなかった。
コメント
1件
うわ、すごく重い空気……読んでてこっちまで息が詰まりそうでした。遥の「言っても言わなくても正解にならない」っていう諦念がひしひし伝わってきて、一瞬一瞬の選択が全部罠みたいな家族の会話、リアルで怖いです。特に颯馬の“楽しそうに笑う”ところとか、スマホの振動で一気に空気が変わる演出が巧みで、続きが気になって仕方ないです。ruruhaさん、また胸にくる話をありがとうございます……!