テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

春風の約束

一覧ページ

「春風の約束」のメインビジュアル

春風の約束

10 - 第10話 離れた心

♥

31

2025年09月28日

シェアするシェアする
報告する

春が過ぎ、日差しは柔らかいのに、陸の心は重く曇っていた。

湊からのLINEも、電話も、ここ数日返していない。

理由を自分でも言葉にできないまま、ただ指を止めては胸がざわつく。


「……何してんだろ、今頃」


机に突っ伏し、ノートに視線を落とす。文字は読めない。頭の中には、告白未満の衝動のときの湊の表情が浮かんで消えない。



一方、湊は東京の大学入試に向けた準備に追われ、陸からの連絡がないことを気にしながらも、日々の忙しさに押し流されていた。


「……陸、元気かな」


昼休みの教室でつぶやくが、周囲の雑音にかき消され、誰も気づかない。



陸は夕暮れの自室で、窓の外をぼんやり見つめる。

春の風がカーテンを揺らすたび、胸がぎゅっと締めつけられる。


「……湊に会いたいのに、会えない」


言葉にすると弱さが露わになる気がして、目を閉じる。



その頃、湊も夜遅くまで参考書を広げ、ペンを走らせていた。

手を止めてスマホを見る。未読のままのメッセージが一件。


「……あ、陸から……?」


しかし、疲れと焦りで、返信の言葉が出てこない。

結局、深呼吸して再びペンを握る。



二人の時間は、同じ夜でも全く別の場所を流れていた。

陸は孤独と不安で胸を締めつけられ、湊は忙しさの中で心配を飲み込み、互いの気持ちがすれ違っていく。



翌日、学校で廊下ですれ違ったときも、言葉は交わされない。

陸は少し視線を逸らし、湊も短く会釈するだけ。

周囲にはいつも通りの風景が広がるが、二人の間には見えない溝がある。



夜、陸はベッドに横になり、枕に顔を埋める。


「……俺、どうしてこうなるんだ……」


涙は出ない。ただ胸の奥で、湊に会いたい気持ちと、連絡できない自分への苛立ちが絡み合う。



湊も、ふと窓の外の夜景を見て、陸のことを思い出す。


「……大丈夫かな、陸」


小さな声は、部屋の静寂に吸い込まれる。

忙しさの影に、二人の心の距離が静かに広がっていた。


時間は過ぎる。春から初夏へ、学校の廊下も教室も変わらないのに、二人の心は少しずつ離れていく。

言葉を交わせないまま、それぞれの日常に飲み込まれる孤独。

それでも、互いを思う気持ちは消えてはいない。

ただ、届かないだけだった。


この作品はいかがでしたか?

31

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚