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春が過ぎ、日差しは柔らかいのに、陸の心は重く曇っていた。
湊からのLINEも、電話も、ここ数日返していない。
理由を自分でも言葉にできないまま、ただ指を止めては胸がざわつく。
「……何してんだろ、今頃」
机に突っ伏し、ノートに視線を落とす。文字は読めない。頭の中には、告白未満の衝動のときの湊の表情が浮かんで消えない。
一方、湊は東京の大学入試に向けた準備に追われ、陸からの連絡がないことを気にしながらも、日々の忙しさに押し流されていた。
「……陸、元気かな」
昼休みの教室でつぶやくが、周囲の雑音にかき消され、誰も気づかない。
陸は夕暮れの自室で、窓の外をぼんやり見つめる。
春の風がカーテンを揺らすたび、胸がぎゅっと締めつけられる。
「……湊に会いたいのに、会えない」
言葉にすると弱さが露わになる気がして、目を閉じる。
その頃、湊も夜遅くまで参考書を広げ、ペンを走らせていた。
手を止めてスマホを見る。未読のままのメッセージが一件。
「……あ、陸から……?」
しかし、疲れと焦りで、返信の言葉が出てこない。
結局、深呼吸して再びペンを握る。
二人の時間は、同じ夜でも全く別の場所を流れていた。
陸は孤独と不安で胸を締めつけられ、湊は忙しさの中で心配を飲み込み、互いの気持ちがすれ違っていく。
翌日、学校で廊下ですれ違ったときも、言葉は交わされない。
陸は少し視線を逸らし、湊も短く会釈するだけ。
周囲にはいつも通りの風景が広がるが、二人の間には見えない溝がある。
夜、陸はベッドに横になり、枕に顔を埋める。
「……俺、どうしてこうなるんだ……」
涙は出ない。ただ胸の奥で、湊に会いたい気持ちと、連絡できない自分への苛立ちが絡み合う。
湊も、ふと窓の外の夜景を見て、陸のことを思い出す。
「……大丈夫かな、陸」
小さな声は、部屋の静寂に吸い込まれる。
忙しさの影に、二人の心の距離が静かに広がっていた。
時間は過ぎる。春から初夏へ、学校の廊下も教室も変わらないのに、二人の心は少しずつ離れていく。
言葉を交わせないまま、それぞれの日常に飲み込まれる孤独。
それでも、互いを思う気持ちは消えてはいない。
ただ、届かないだけだった。