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日下部の相談室2

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日下部の相談室2

53 - 第53話 夢がない自分が、空っぽに見える

2025年11月29日

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相談室は午後の光が斜めに差し込んでいた。

日下部はカーテンを半分閉めたまま、来訪者が椅子に座るのを待つ。


「進路の紙さ、提出期限近いんだよ」


前置きもなくそう切り出して、相手は机に視線を落とした。


「第一志望とか将来の夢とか書く欄あるじゃん。

あれ見ると、毎回手止まる」


日下部は ただ、相手の言葉の速さだけを聞いている。


「別に、何も考えてないわけじゃないんだけどさ。

やりたいことって言われると、急に何も無くなる」


指先が紙の端を弄ぶ。


「周りはさ、“昔からの夢”とか“これしかない”とか言うじゃん。

それ聞いてると、自分だけ中身スカスカみたいで」


「比べると、そう見えるな」


日下部の返事は短い。


「でもさ、それって甘えじゃない?

本気で何か探してない逃げっていうか」


「……その言葉、誰の声だ」


一瞬、相手が黙る。


「親。あと、先生。たまに友達」


「自分は?」


「……自分も、そう思うときある」


日下部は軽く息を吸った。


「夢があるかないかで、人の中身は決まらない」


即答だった。


「夢ってのは“結果”であって、材料じゃない。

空っぽに見えるのは、まだ形になってないだけだ」


「でもさ、

聞かれるたびに沈黙するの、地味につらいんだけど」


「つらいだろうな。

沈黙=価値がない、みたいな空気になる」


相手の肩が小さく上下する。


「正直、目標とか聞かれる場から逃げたい」


「逃げてもいい場と、逃げなくていい場がある」


日下部は机に指を組む。


「進路用紙は、未来の宣言書じゃない。

一時的な“仮置き”だ」


「仮?」


「変えていい前提のやつだ」


相手は苦笑した。


「そんなふうに思ってる人、周りにいない」


「声に出さないだけだ。

本当は大半が、決めきれてない」


沈黙。

今度は、焦りが薄れている。


「……さ」


相手は少し間を置いて言う。


「夢がない自分を、恥ずかしいって思わなくなる日は来る?」


日下部は、少しだけ視線を落とす。


「“恥ずかしい”って感覚が出るうちは、ちゃんと前向いてる」


「え?」


「何も考えてなかったら、恥じることもない」


その言葉に、相手は小さく息を吸い込む。


「じゃあ、今の自分は……」


「途中」


きっぱりと言って、日下部は立ち上がった。


「途中にいるやつを、空っぽとは言わない」


相談室の時計が一つ、音を立てて進む。


「今日はそれでいい。

無理に夢を作るな。

生きてりゃ、そのうち勝手に邪魔してくる」


ドアが閉まる。

午後の光が、少しだけ薄くなっていた。

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