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相談者は、椅子に座ってからもしばらく何も言わなかった。
スマホを握ったまま、画面は見ていない。
「今日は静音モードだな」
蓮司が言う。
「うるさいよりマシでしょ」
「まあな」
相談者は肩をすくめる。
「クラスでさ」
「うん」
「消えてる人、いるじゃん」
「いるな」
「でも」
「でも?」
「誰も“消えた”って言わない」
蓮司は頷く。
「最初は」
「うん」
「休みがちになる」
「ある」
「席が後ろになる」
「ある」
「発言しなくなる」
「ある」
相談者は指を折っていく。
「それでも、誰も騒がない」
「騒がないな」
「問題にならない」
「ならない」
相談者は小さく笑った。
「逆に、問題起こすやつは覚えられる」
「目立つからな」
「でも」
少し間。
「何もしないやつの方が、先に消える」
蓮司はペンを止めた。
「正確には」
「?」
「消えても困られない人」
相談者は目を伏せる。
「俺さ」
「うん」
「最近、欠席しても連絡来ない」
「来ないか」
「前は来てた」
「変化だな」
「理由、分かる」
相談者は静かに言う。
「いなくても回る」
蓮司は否定しない。
「回る」
「だから」
「うん」
「誰も探さない」
「探さないな」
相談者は息を吐く。
「怒られもしない。
問題視されない。
期待もされない」
少し間を置いて。
「背景になる」
蓮司はその言葉を繰り返した。
「背景」
「風景」
「動かなくても違和感ない」
相談者は頷く。
「それが一番きつい」
「きついな」
蓮司は静かに言う。
「なあ」
「なに」
「その人」
「?」
「消えてる人」
「うん」
「今、どうなってる」
相談者は少し迷ってから答えた。
「誰も知らない」
「それだ」
「それ?」
「完全に消える直前」
相談者は顔を上げる。
「じゃあさ」
「うん」
「どうすりゃいい」
「二択」
「極端だな」
「簡単だ」
蓮司は淡々と言う。
「音を出すか。
もう一つ。
場所を変えるか」
相談者は苦笑した。
「音出すと、目立つ」
「出し方を選ぶ」
「どうやって」
「小さく」
「例えば」
「欠席の理由を一言だけ出す」
「それだけ?」
「それだけで違う」
相談者は考える。
「場所変えるって?」
「背景にならない場所」
「学校外?」
「それも」
「ここ?」
「ここは確実」
相談者は少し笑った。
「俺さ」
「うん」
「消えてる人、助けたいと思ってた」
「思ってたな」
「でも」
「?」
「自分も消えかけてた」
蓮司は頷いた。
「よくある」
「順番、逆だった」
「まず自分」
相談者は深く息を吐く。
「静かに消えるって」
「うん」
「楽そうに見える」
「誤解だ」
「だよな」
「一番、助けが届かない」
相談者は立ち上がる。
「俺」
「うん」
「今日ここ来たの、音?」
「十分」
「小さすぎない?」
「聞こえてる」
ドアの前で、相談者が振り返る。
「なあ」
「なに」
「もし」
「うん」
「また静かになったら」
「来い」
「音、出さなくても?」
「足音だけでいい」
ドアが閉まる。
消える人は、騒がない。
だから見つからない。
でも静かな音でも、
拾ってくれる場所はある。