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王立第一学院。
祝福を受けた者だけが入学を許される、王都随一の教育機関。
その掲示板の前に、今年の新入生が集まっていた。
名前と祝福が並ぶ。
《剣聖候補 アルト=アストレア》
《炎魔導士 カイン=ローデル》
《治癒師 ミリア=ヴァルト》
歓声とざわめき。
そして――
「……レオンの名前、ないぞ?」
誰かが言った。
視線が掲示板を走る。
もう一度。
ない。
戦闘科の一覧に、レオンの名は存在しなかった。
代わりに、掲示板の端。
小さく貼られた別紙。
《祝福未確認者:レオン=アストレア》
《戦闘科入学不可》
《進路再審査対象》
再審査対象。
遠回しな拒絶。
「無祝福って本当にいるのかよ」
「双子で片方だけ?」
「家、気まずいだろうな」
笑いが混じる。
アルトはすでに囲まれていた。
「剣聖候補だってさ」
「すげえな」
「将来安泰じゃん」
レオンは人垣の外に立つ。
兄はまだ気づいていない。
いや、気づいているかもしれない。
だが、こちらに来る理由がない。
「レオン=アストレア」
低い声。
学院長補佐の男が、名を呼ぶ。
周囲が静まる。
「前へ」
呼び出しは、職員室でなく。
掲示板の前。
全員が見ている場所。
レオンは前に出る。
視線が集まる。
祝福を持つ者たちの視線。
「君の祝福は確認されていない」
事実確認のような口調。
「本学院戦闘科は、祝福保持者のみを対象とする」
知っている。
「例外はない」
はっきりと言う。
「よって、君の戦闘科入学は認められない」
ざわ、と空気が揺れる。
誰かが小さく笑う。
「推薦も、家柄も関係ない。祝福が全てだ」
線引き。
この世界の原則。
「補助科への編入を希望するなら、手続きを行え」
それは救済ではない。
降格だ。
戦う資格はない、と言われている。
アルトがようやく人垣を抜ける。
「待ってください」
声を上げる。
場が凍る。
「彼は、努力家です。祝福がなくとも――」
「祝福がないからこそ、だ」
補佐は遮る。
「戦闘は才能と加護の領域。努力で覆せるなら制度はいらん」
群衆の前で、理屈が刃になる。
レオンは兄の腕を軽く押さえた。
「いい」
静かに言う。
「兄上。いいんだ」
アルトは歯を食いしばる。
だが何も言えない。
制度は、兄の味方だ。
そして敵でもある。
「以上だ」
補佐は踵を返す。
人の波が動き出す。
アルトは中心へ戻り、レオンは外へ押し出される。
同じ学院の門をくぐる。
だが立つ位置が違う。
石畳の上で足を止める。
胸の奥が、じわりと熱を持つ。
悔しさではない。
怒りでもない。
もっと曖昧で、重い何か。
兄の紋章が輝くたび、胸の奥がざわつく。
あの光に、触れたい。
奪いたい、のではない。
ただ――
同じ場所に立ちたい。
その瞬間。
視界の端で、誰かが転ぶ。
祝福の紋章が弱く光る。
そして。
胸の奥の熱が、微かに脈打った。
何かが、呼応する。
無祝福。
そう言われたはずなのに。
違う。
何もないはずの内側で、確かに“何か”が動いている。
レオンは初めて思う。
本当に空白なのは、水晶の表示だけか?