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学院の門を出たあとも、胸の奥のざわつきは消えなかった。
戦闘科の校舎から聞こえる掛け声。剣が打ち合わされる乾いた音。
そこに、自分の居場所はない。
石畳を外れ、裏路地へ入る。人目を避けるように。
「……やめて……!」
か細い声が聞こえた。
角の向こう。
男が二人、少女を壁に押しつけている。
学院の制服。胸元には《治癒師》の紋章。
「祝福持ちのお嬢様がよ」
「ちょっと金貸してくれって言ってるだけだろ?」
男たちの腕にも紋章がある。だが光は弱い。低位祝福。
格差は、こういう形でも現れる。
レオンは足を止める。
関わる理由はない。
祝福もない自分が出ても、無力だ。
だが。
少女の目が、こちらを見た。
助けを求める視線。
その瞬間、身体が動いた。
「離れろ」
声は思ったより低かった。
「は?」
男の一人が振り返る。
「無祝福が何の用だ?」
嘲笑。
胸の奥が、また脈打つ。
「関係ないだろ」
言い返す。
殴りかかられる。
避けきれない。
視界が揺れる。
そのとき。
――熱が弾けた。
胸から腕へ。腕から指先へ。
無意識に、男の手首を掴む。
触れた瞬間。
男の紋章が、かすかに揺らいだ。
「……な、んだ?」
光が、細くなる。
同時に。
レオンの身体が、軽くなる。
筋肉が強張り、視界が鮮明になる。
殴り返した拳が、予想以上の衝撃を生んだ。
男が吹き飛ぶ。
もう一人が後ずさる。
「こいつ……っ」
だが、その男の紋章も、不安定に瞬いた。
レオンは自分の手を見る。
何も刻まれていない。
なのに、力がある。
男たちは逃げた。
裏路地に静寂が戻る。
少女が崩れ落ちる。
「……ありがとう……」
震える声。
胸の紋章が、弱く点滅している。
さっきより、光が薄い。
レオンは気づかない。
ただ、自分の鼓動の速さに戸惑っていた。
「今のは……」
何だ。
祝福はないはずだ。
だが、確かに感じた。
触れた瞬間、何かが流れ込んだ。
借りた?
違う。
奪った?
その言葉が浮かび、すぐに打ち消す。
そんなはずはない。
少女が立ち上がる。
「……あなた、祝福は?」
「ない」
「でも、さっき……」
言葉を濁す。
自分でも説明できない。
少女は深く頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとう」
その背中が遠ざかる。
角を曲がるとき、よろめいた。
紋章の光が、一瞬だけ消えかける。
レオンは気づかない。
ただ、自分の内側を探る。
さっきの力は、もうない。
静かだ。
だが。
確かに何かが動いた。
無祝福。
そう言われたはずなのに。
本当に“ない”のか?
路地の壁に背を預ける。
手のひらを見る。
刻まれていないはずの場所が、ほんのりと熱を帯びていた。
知らないうちに、何かが始まっている。
それだけは、分かった。