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白山小梅
76
中学生になった私はその日、商店街の一角でいとこの凛と待ち合わせをしていた。二人で会うのは両家族みんなで行った初詣以来だ。
「ごめんね!待たせちゃったかな?」
「あ、凛ちゃん!大丈夫だよ。ついさっき来たところだったから」
いつもはどちらかの家でのんびりと過ごすことが多かった。だから、こんな風に二人で外を連れ立って歩くのはずいぶんと久しぶりだ。
私は隣を歩く凛の横顔をちらりと見上げた。春風にさらりと髪をなびかせて歩いているのを見て、ついでに周囲にも目をやった。女の子たちが凛の姿を追っているのが分かって、こっそりと苦笑し、気持ちは分かると納得する。
なぜなら身びいきを抜きにしても、凛は人目を引く容姿をしているのだ。そのことを口にするととても嫌がるから、本人に向かっては絶対に言わないが。
今注目の的となっている当人は、周りの熱視線に気づいている様子もなく、機嫌良く鼻歌を歌っている。
「凛ちゃん、今日は何を買うの?」
「可愛い雑貨を見つけたの。でもそこのお店、一人だとちょっと入りにくくって。それで瑞月ちゃんを誘っちゃったんだ。ごめんね」
「全然ごめんねじゃないよ。私も雑貨は好きだし、誘ってくれて嬉しい。私で良かったらいつでも付き合うから遠慮しないで」
「ありがと、瑞月ちゃん!大好きよ」
人目がなかったら抱きつきそうな勢いの凛に、私は焦る。
「ちょ、ちょっと、凛ちゃんてば」
「ごめんごめん。瑞月ちゃんの前だと自分を出せて楽だから、ついね」
凛は照れたように笑った。
「買い物が終わったら、パンケーキ食べに行かない?付き合ってくれたお礼にご馳走する」
「行きたい!」
笑って頷いた時、ショウウインドウに写る自分たちの姿が目に入った。彼の秘密を聞いたのは、まだ私が十才にもならない頃のことだったと、当時のことを思い出す。
ワンピース姿の私と背の高い綺麗な男の子――。
私は凛に訊ねる。
「ねぇ、凛ちゃん。私たちってカップルみたいに見えるのかな?それとも兄妹?」
「どちらかと言えば、兄妹じゃない?……もしかして瑞月ちゃん、好きな人でもいる?もしその子に見られて誤解でもされたら、やっぱりまずいわよね。誘っちゃって悪かったかな」
「そういう人はいないから、変な気を遣わなくていいよ」
申し訳なさそうな顔をする凛に、私は肩をすくめて笑った。
その後、雑貨店で買い物を済ませて店を出た私たちは、パンケーキを求めてお目当てのカフェに入った。
凛は幸せそうな顔でパンケーキを口に運んでいたが、ふっと真顔になる。
「あのね、瑞月ちゃんの幼馴染の久保田君なんだけど」
「諒ちゃん?」
「わたしのこと、彼に話してあったんだね」
「うん。去年、同じ学校に入ったって聞いた時に話したよ。だって、二人が仲良くなったらいいなぁ、って思ったから」
「今年、わたしたちが同じクラスになった話は聞いたかしら?彼、色々と誤解してたみたいよ」
「誤解?」
「わたしの名前がこんなだから仕方がないんだろうけど、どうやら女だと思ってたみたい」
「……あ、私、名前しか伝えてなかったかも」
「肝心なとこが抜けちゃったのね」
「だって、別にたいしたことじゃないでしょ?男だとか女だとか」
「それはそうなんだけど」
「それで?仲良くなれそう?」
訊ねる私に、凛は含みのある言い方で返してよこす。
「わたしは、仲良くしたいと思うんだけどね」
「ん?」
首を傾げる私に凛は苦笑を浮かべたが、すぐに話題を変える。
「ところでこの後なんだけど、本屋さんに寄ろうと思うの。瑞月ちゃんはどうする?」
「一緒に行く。私もほしい本があるんだ」
カフェでのひとときを満喫した後、私たちはそこからいちばん近い書店に向かった。
その途中、突然名前を呼ばれた。驚いて振り返ったそこに諒がいて、二度驚く。
「諒ちゃん!偶然だね!」
ところが、私に向かって近づいてくる彼は、険しい表情をしていた。怒っているようにも見える。
私はおどおどしながら、目の前に立った彼に声をかける。
「諒ちゃん?」
彼は不機嫌な顔をしている。
「何してんだよ」
「何って……。これから本屋さんに行くところだけど」
「久保田君、こんにちはっ」
凛が私たちの間に割って入った。諒に呼びかけたその声は低い。私以外には「本当の自分」を秘密にしているのだ。
諒は目を見開き、凛と私を交互に見た。
「高山?」
「いつも瑞月ちゃんがお世話になっています」
凛はにこやかな笑顔で言った。
諒は動揺した様子を見せ、続いて凛を問い詰める。
「なんで瑞月といるんだ?」
諒の鋭い口調に驚いている私の隣で、凛は軽い調子で答える。
「なんでと言われても……。俺たちがいとこ同士なのは知ってるよね?普段から仲がいいし。ね?瑞月ちゃん」
凛は言いながら私の肩に腕を回した。
「凛ちゃん、重いよ。この腕どけてよ」
「あ、ごめんごめん」
私から腕を離した凛は、なぜか笑いを堪えた顔つきで言う。
「俺たち、これからそこの本屋に行こうとしてたんだけど、久保田君も一緒に行く?」
「行くに決まってるだろ」
諒は仏頂面で返した。
二人の間にいるのが居心地悪くなり、早く家に帰りたくなった。けれど、目的の物は買って帰ろうと思い直し、私は二人より先に本屋に足を踏み入れた。
店内に入って間もなく、ほしかった本を見つけた。それを手に取り、何気なく横を見れば、諒がいた。思い返せば、彼は店に入った時からずっと私の傍にいた。
「諒ちゃん、ほしい本とかあるんなら見てきたら?」
「今度またゆっくり見るから、今日はいい」
「そう?」
それならどうしてわざわざ本屋に着いてきたのかと、諒の行動を不思議に思う。
そこに凛がやって来た。
「瑞月ちゃん、欲しかった本は見つかった?」
「うん」
「じゃ、一緒に買ってあげるよ」
「いいの?ありがとう」
「高山にも素直に甘えるんだな」
不満げな諒のつぶやきが耳に入り、私は聞き返す。
「何のこと?」
「な、なんでもない」
諒は慌てた様子で目を逸らし、外で待っていると言い置いて、足早に店を出て行ってしまった。
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