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諒の態度に首を捻りつつ、会計を済ませた凛と一緒に私は店を出た。
諒は壁際に背を預けて、スマホに目を落としていたが、私に気づいて体を起こした。
私は諒と凛の顔を交互に見て、彼らに告げる。
「私、一人で帰るね」
「家まで送るよ」
「でも凛ちゃんの家、方向が違うでしょ」
「それなら、瑞月は俺が送る」
「だったら二人で送って行こう」
凛は紙袋を持ち直し、私の手を取って繋いだ。
「凛ちゃん、この手は何?」
「いいからいいから」
凛は怪訝な顔の私ににやりと笑ってから、諒にちらりと視線を走らせ、愉快そうに口元を緩めた。
一方の諒は、ますますむすっとした顔をしている。
気まずい帰り道の最終地点、私の家の前に着いて、ようやく凛は手を離した。
「瑞月ちゃん、今日は付き合ってくれてありがとね」
「どういたしまして。えぇと、二人とも送ってくれてありがとう。じゃあ、ここで」
「またデートしましょ」
言うなり凛は私の額にチュッと唇をつけた。
「り、凛ちゃん!」
「ごめんごめん」
凛はにやにやと笑いながら諒に目をやった。
その視線の先にいた諒は、眉間に深いしわを寄せて凛を睨んでいる。
もう我慢できないとでもいうように、凛はあははっと笑い声を上げた。
「久保田君の反応があまりにも面白くって。からかいたくなっちゃった」
凛の言葉に、諒は苦々しい顔をしてそっぽを向いた。
諒の様子に凛は笑いをこらえたまま、私の耳元に顔を寄せる。
「あのね。わたしのあのこと、彼には話してもいいわ」
「え?急にどうしたの?」
「だって、早く誤解を解いてあげないとかわいそうなんだもの」
「誤解とか、かわいそうとか、よく分かんないんだけど……。でも、いいの?そのことは秘密なんじゃ……」
「うん。だけど、久保田君は軽々しく言いふらすような人じゃないんでしょ?」
「それは、まぁ……。だったら、凛ちゃんが自分で話した方がいいんじゃないかな」
「うぅん、わたしの話に耳を傾けてくれるんならそうしたいけど……。瑞月ちゃんが話してくれて構わないわ」
凛は苦笑した後、声のトーンを戻してしみじみとした口調で諒に言う。
「久保田君は瑞月ちゃんのことが本当に大切なんだね。どんな男と一緒にいるのかって血相変えちゃうくらいに」
「俺は別に……!」
凛はくすくすっと笑う。
「でもそういうのは、ほどほどにした方がいいと思うよ。ところで、瑞月ちゃん」
凛は再び私に小声で話しかける。
「久保田君の不機嫌の理由は、ヤキモチね」
「ヤキモチ?凛ちゃんに?いとこなのに?」
「いとこでもなんでも、瑞月ちゃんが自分以外の男と一緒にいるのは嫌だっていうことなんでしょ」
「ふぅん、よく分かんないなぁ。だって、諒ちゃんにとって、私は妹みたいなものなのに」
「妹、ねぇ……。瑞月ちゃんとこういう話をするのは、まだ早いのかな」
凛は苦笑を浮かべて諒の方に視線を向けた。しかし、彼に睨まれて肩をすくめる。
「もう退散するわ。おばさんたちによろしく。久保田君、また学校でね!」
凛は私たちに向かって明るい声で言い、軽やかな足取りで帰って行ってしまった。
不機嫌な顔をしたままの諒と二人きりになって、私は困った。このまま帰ってしまおうか、それとも、凛の事情を今ここで諒に話してしまおうかと迷う。さてどうしたものかと考え込んでいるところに、諒が問いかけて来る。
「さっき二人で何の話をしてたんだ?」
「えぇと、ちょっと……」
口ごもる私を見て、諒はますます不機嫌そうに眉根を寄せる。
「二人だけの秘密ってわけ?」
「そういうことじゃなくて、少し繊細な話で……」
諒は腕を組んで私を見下ろす。
「俺には言えない話か」
「言えないというか、私からはやっぱり言いにくいというか……」
「分かった。じゃ、今度直接、高山に聞くことにする」
「うん。そうした方がいいと思う」
私はほっとした。ほっとしたついでに、凛に対する諒の不機嫌な態度の理由を聞きたくなる。凛はヤキモチだと言っていたが、本当はどうなのか気になる。けれど、まだ表情が固い諒に真っすぐには訊ねにくく、私は別の言い方をしてみる。
「あのね、前にも言ったと思うけど、凛ちゃんとも仲良くしてもらえたら嬉しいんだけどなぁ……」
「それは何とも言えないな」
諒は肩をすくめた。
「だって、俺はまだあいつのことをよく知らないからな。今年から同じクラスになったばっかりだし」
「優しくて、とってもいい人なんだよ」
目に力を込めて訴える私に、諒は困ったように笑う。
「瑞月の親戚なら、仲良くはしたいけどさ」
諒の言い方は曖昧だった。
いくら私が仲良くしてほしいと思っても、二人の性格が合わなければどうしようもない。これ以上、無理に二人を繋げようとすることは諦めたが、それから間もなくのこと、二人が友達になったことを知った。その経緯については、どちらに聞いても教えてもらえなかったが、そんなことは些細なことだった。私にとって重要なのは、大好きな二人の距離が縮まった、ということだったのだから。
以来、三人で会う機会が増えた。気づいた時には栞と凛の二人までもが親しくなっていて、いつの間にか私たちが四人で行動することは当たり前のこととなっていた。
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