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教室では、誰も声を荒げていなかった。それが余計に残酷だった。
「……ねえ、あれ」
ひそひそ、という音量。
でも、遥にははっきり届く距離。
「また一人でいる」
「毎日じゃない?」
「普通さ、誰かと話すでしょ」
“普通”。
その単語が、もう罠だとわかっているのに、
耳が勝手に拾ってしまう。
席替えの日。
くじを引く前から、空気は決まっていた。
「遥は……そこな」
教師が、迷いなく言う。
一番端。
後ろ。
隣は空席。
誰も「なんで」と聞かない。
理由を共有しているからだ。
「だって、あの子と組むとさ、空気重くならない?」
「話しかけても反応ないし」
「無視されてるみたいでムカつく」
遥はノートを開いている。
書くふりをしている。
(無視してない。声が出ないだけだ)
でも、それを言えば――
「ほら、また被害者ぶる」
「普通じゃないって言ってるだけなのに」
休み時間。
後ろの席から、わざと聞こえる声。
「ねえ、あれってさ」
「人の気持ちわからないタイプだよね」
「共感性ないってやつ」
笑い声。
「将来やばくない?」
「事件起こしそう」
「ニュースに出る系」
誰も冗談のトーンで言わない。
本気でもない。
でも、否定もしない。
それが一番逃げ道がない。
体育の時間。
「ペア組んでー」
一瞬の沈黙。
そして、全員が“見ない”。
教師が眉をひそめる。
「……またか。協調性、ないな」
遥の胸が、きゅっと縮む。
(協調性がないんじゃない。最初から、排除されてるだけだ)
でも、その違いを説明する言葉は、
学校には存在しない。
「努力しなさい」
「合わせなさい」
「普通になりなさい」
全部、同じ命令。
昼休み。
「遥ってさ、怒らないよね。殴られても、泣いても、無反応」
別の声が重なる。
「感情欠落してんじゃない?」
「人間っぽくない」
遥の指先が、弁当箱の端を強く押す。
(怒ってる。ずっと。でも、それを出した瞬間――)
「やっぱり普通じゃなかった」
そう言われる。
だから、出さない。
すると今度は、
「ほら。やっぱり何考えてるかわかんない。不気味」
黒板に書かれた文字より、
人の言葉のほうが、ずっと鮮明に刺さる。
教師は言う。
「遥、もっと積極的に。クラスに溶け込む努力をしなさい」
努力。
努力しないと、
存在してはいけないという前提。
(俺が悪いんだ)
その考えが、もう“自然に”浮かぶ。
(普通じゃないから)
(だから嫌われる)
(だから孤立する)
誰も殴っていない。
誰も怒鳴っていない。
でも、遥は知っている。
これは暴力だ。
逃げ場のない、集団の暴力だ。
チャイムが鳴る。
誰かが、最後に言った。
「まあさ、仕方ないよね。普通じゃないんだから」
その一言で、
今日の遥は、また“処理”された。