テラーノベル
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幼馴染たちの部屋を訪ねる日々は一年ほど続いたが、それぞれの環境と状況の変化に伴って、徐々にその時間は減っていく。栞に恋人ができ、諒に関しては、医師国家試験に向けた勉強がいよいよ本格化し始めたのだ。
幼馴染たちは、今まで通り遊びに来てほしいと言ってくれたが、忙しそうな二人の元を頻繁に訪ねるのは気が引けた。そのため、週に一度が二週間に一度、さらにはもっと間遠になって行く。
私たち三人は子どもの頃からずっと一緒だったが、ちょうどこの頃は、それぞれがそれぞれの道を歩き始めた時期でもあったのだろう。
諒は無事に医師免許を取得して研修医となり、ますます多忙な毎日を過ごすようになっていた。
大学四年生になった私と栞も、就職活動と卒業論文の執筆などで、忙しい日々を送っていた。そして、大学卒業後の私たちは、どちらも地元には戻らず、学生時代を過ごしたこの街で働き始める。
就職してからは慣れないことの連続で、私は毎日を余裕なく過ごしていた。幼馴染たちや従兄がせっかく近くに住んでいるというのに、以前のようには会えないでいた。近況を伝え合うのはもっぱらメールが中心で、実際に顔を合わせるのは、年に何度かという程度だった。
それから数年がたち、栞が結婚した。それは、私たちが大学を卒業してから四年後のことだった。お相手は、大学時代から付き合っていた料理上手な恋人だ。結婚式に招かれた私は、大好きな栞の美しい花嫁姿に嬉し涙を流した。
お色直しで栞が席を離れた後、友人席に座っていた私は彼女の親族席に何気なく目を向けた。
栞の両親は席にいなかった。挨拶のために各テーブルを回っている。
そして諒は、親戚と思われる数人の人々に取り囲まれていた。
久しぶりに見た彼は、すっかり大人の男性になっていた。
それもそのはずだ。私が二十六歳なのだから、諒だって同じように年齢を重ねているわけで、彼は今年、三十歳になるはずだ。改めて自分たちの年齢を考えると、これからは「諒ちゃん」などと呼んではいけないような気がしてくる。今後は「諒さん」とでも呼んだ方がいいだろうか、などと考えて、それはそれで彼との距離が遠くなってしまうようで寂しいと、小さくため息をつく。
諒と目が合ったのは、その時だった。
彼は椅子から立ち上がり、私の方へとやって来た。会場の照明がまぶしいのか、目を細めて笑う。
「久しぶりだな」
私は慌てて立ち上がり、頭を下げる。
「あの、お久しぶりです。えぇと、本日はおめでとうございます」
それに対して、諒もまたかしこまった様子で挨拶を返してよこす。
「ありがとうございます」
姿勢を戻した諒は私に視線を当てながら、ぼやくように言う。
「まさか妹に先を超されるとは思っていなかったよ」
大人の男性になって、諒は変わってしまったかもしれないと思っていた。けれど、私への態度も表情も口調も、子どもの頃からよく知っている彼だった。そのことにほっとして、私は昔に戻ったような気分になり、軽口をたたく。
「そんなこと言っちゃって。よりどりみどりで選んでいるからじゃないの?だって諒ちゃん、相変わらずモテそうだもんね」
諒の顔に苦笑が浮かぶ。
「よりどりみどりって、まるで遊んででもいるような言い方はやめてくれよ。人聞きが悪いだろ」
「だってお医者さんって、周りに女の人がたくさんいるような職場でしょ?いいなって思う人が一人くらいはいるんじゃない?もしそうなら、早く捕まえておけばいいのに」
専攻医となった諒は今、大学時代から住むこの街の総合病院に勤務している。
「職場でそんな気になるわけないだろ。……それより、瑞月、あれだな。今日のお前は、馬子にも衣装ってやつだな」
大人になったと思ったのは、外見だけだったらしい。私はむっとして諒を睨みつけた。
「久しぶりに会ったのに、そういう失礼なことを言うなんてひどいよ。しばらく会わない間に、ずいぶんと口が悪くなったみたいね。そこは嘘でも、綺麗になったなとか言うところでしょ?」
「あはは、確かにそうだ」
諒は笑った。しかしすぐにその笑いを収め、私に柔らかな眼差しを向けた。
「本当に、ますます綺麗になった」
「そ、それはどうも、ありがとう……」
心の奥をくすぐるような、しみじみとした彼の言い方に戸惑い、私はどぎまぎした。
「綺麗になったのは、もしかして恋人がいるせいか?」
さらりと尋ねられたせいで、私もさらりと答える。
「うん。いるよ」
諒の瞳が揺れた。彼の頬に複雑そうにも見える笑みが浮かんだのは、私にまで先を越されてしまうとでも思ったからなのか。
「……へぇ、そうなのか。その人はお前のことを、ちゃんと大事にしてくれているのか?」
「私はそう感じてるよ」
「結婚、考えてるのか?」
「どうかなぁ。付き合ってそろそろ一年くらいになるけど、そういう話をしたことはまだないわね。でも、そうね。私は彼なら、って思ってるけど」
「そうか。もしも決まったら教えてくれよな。その時は盛大に祝ってやるからさ」
「そうだね。その時が来たらね」
私はふふっと笑い、お色直しを終えて戻って来た栞の方へ顔を向ける。
「私、栞と写真撮ってくるね」
「あぁ、行ってこい。……なぁ、瑞月。今度また、みんなで飯にでも行こうぜ」
「いいわね。でも、一番忙しいのって諒ちゃんだと思うんだよね。だから、時間ができたらぜひ連絡して。楽しみに待ってるから」
「あぁ」
諒は微笑みながら頷いた。
その時、彼の笑顔が翳ったことに気づかないまま、私は栞の元へと歩き出した。
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白山小梅
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