テラーノベル
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夜。
紬はベッドに座ったまま、スマホを握っていた。
画面には、悠生とのメッセージ。
何度開いても、内容は変わらない。
でも。
頭の中では、何度も同じことを考えてしまう。
悠生が好きな人。
蒼真。
どうして。
よりによって。
「……蒼真」
口にした瞬間、胸が詰まった。
昔からそうだった。
悠生は蒼真をよく見ていた。
蒼真が笑えば、悠生も笑った。
蒼真が困っていれば、すぐ気づいた。
小さい頃は、それが当たり前だと思っていた。
三人で遊んで。
三人で帰って。
三人で話して。
でも。
いつからか。
蒼真と悠生の間だけに、自分には分からないものができていた。
それが今になって、はっきり見えた。
翌日。
昼休み。
紬は廊下に出た。
少し先に、蒼真と悠生がいる。
「昨日のこと」
悠生が言っている。
「何」
「……いや」
「言いたいなら言えよ」
「紬のこと」
その名前が聞こえて、紬は足を止めた。
隠れるつもりはなかった。
ただ。
今、二人の前に出たくなかった。
「紬が?」
蒼真が聞く。
「うん」
「何か言ってた?」
「何も」
「なら、いいだろ」
「でも」
悠生が少し黙る。
「たぶん、何か考えてる」
蒼真の表情が変わった。
「……何を」
「自分のこと」
「……そうか」
「最近、少し変わっただろ」
蒼真は廊下の先を見る。
「本人が話したくなったら、聞いてやればいい」
「蒼真は?」
「俺?」
「何か気づいてる?」
少しの沈黙。
「……少しだけ」
紬は息を止めた。
自分のことを話している。
それなのに。
二人の会話に入れない。
そのことが、妙に苦しかった。
自分のことなのに。
また蒼真だった。
自分より先に気づいて。
自分より先に分かったような顔をする。
昔から。
何も変わっていない。
その日の放課後。
紬は蒼真を待った。
昇降口。
蒼真が靴を履き替える。
「蒼真」
蒼真が振り返る。
「何」
「話がある」
蒼真は少し黙った。
「……ここで?」
「うん」
周りには誰もいない。
紬は蒼真を見る。
「俺のこと、どう思ってる?」
「弟」
「それだけ?」
蒼真は答えない。
「俺が女の子として生きたいって言ったら?」
「前にも言っただろ」
「男として生きた方がいいって?」
「……うん」
「どうして?」
「危ないから」
「だから、何が危ないんだよ」
蒼真の顔が強張る。
「紬」
「俺、もう子どもじゃない」
「分かってる」
「分かってない」
紬の声が震えた。
「俺がどうしたいか、蒼真は一回も聞いてない」
蒼真は黙っている。
「いつも止めるだけじゃん」
「……」
「俺が何になりたいかも知らないくせに」
「知ってる」
「じゃあ言ってよ」
蒼真は答えられない。
「言えないだろ」
紬は笑った。
「蒼真、自分のことばっかりじゃん」
その言葉に。
蒼真の顔から表情が消えた。
「……そうだな」
「え?」
「そうかもしれない」
紬は何も言えなくなる。
蒼真は視線を落とした。
「でも」
しばらくして、低い声で続ける。
「俺は、お前に同じ思いをしてほしくない」
「同じって何」
「……」
「何があったの?」
蒼真は答えない。
紬は一歩近づく。
「俺に言えないようなこと?」
蒼真の手が強く握られる。
「……昔」
それだけ言って、止まった。
紬は待った。
蒼真はしばらく黙っていた。
そして。
「昔、俺が女みたいだって言われてたの、覚えてる?」
「……うん」
「最初は、それだけだった」
蒼真は遠くを見る。
「笑われたり、からかわれたり」
紬は黙って聞く。
「そのうち、嫌だって言ってもやめなくなった」
「……」
「逃げても追ってきた」
蒼真の声は淡々としていた。
その淡々とした話し方の方が、紬には怖かった。
「それで」
蒼真は言葉を止める。
「ある日、もっと嫌なことをされた」
紬は息を呑む。
蒼真はそれ以上、具体的には話さなかった。
話せなかった。
「誰にも言わなかった」
「……何で」
「言ったら、もっと面倒になると思った」
「悠生にも?」
「……うん」
「でも」
紬は思い出す。
昔。
悠生が蒼真を見つけたこと。
あの頃から、悠生だけが何かを知っているようだった。
「悠生は知ってるの?」
蒼真は答えなかった。
それが答えだった。
紬は蒼真を見る。
今まで知らなかった。
何も知らなかった。
自分が「どうして髪を切ったんだろう」と思っていた頃。
蒼真は。
自分には見せないものを抱えていた。
「……だから、俺に女の子になるなって言ってたの?」
蒼真は目を伏せた。
「怖いんだよ」
初めて。
その言葉が蒼真の口から出た。
「お前が同じ目に遭うんじゃないかって」
紬は何も言えなかった。
「でも」
蒼真は続ける。
「だからって、お前の気持ちを否定していい理由にはならない」
紬は蒼真を見る。
蒼真は苦しそうに笑った。
「それは分かってる」
少しの沈黙。
「……ごめん」
その言葉を聞いて。
紬はすぐには許せなかった。
でも。
初めて。
蒼真が自分を止めていた理由を知った。
そして同時に。
自分がずっと見ていなかったものが、確かにあったのだと知った。
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コメント
1件
うわあああ第28話、読み終わったよ……😭💔 蒼真の過去、重すぎる……「怖いんだよ」って初めて本音見せたシーン、こっちまで息止まった。紬が「何も知らなかった」って気づく流れ、切なすぎて胸がギュッてなった。でも、お互いの気持ちがちょっとだけ近づいた感じがして、この先が気になる!! ruruhaさん、めっちゃエモい回をありがとうございます…!!続きが楽しみすぎるよ〜🌸✨