テラーノベル
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水を飲み終えると、颯馬はふっと息を吐き、後ろ手に組んだ腕で遥の肩を叩いた。
「ふーん、よくやったな。でもな、これで終わりだと思うなよ」
友人たちが周囲に並び、笑いながら背後から肩や腕を押す。軽く突かれるだけで遥のバランスは崩れ、尻もちをつくたび砂利が背中に食い込む。
「次は掃除だ。お前の“犬っぷり”を見せてもらうぞ」
颯馬が指示する。友人の一人がモップを手に取り、砂利に置かれた小さな桶の水を汲み始める。遥は何も言わず、地面に手をつき、四つん這いで水をすくった。
「もっと素直にやれよ。もたもたすんな」
別の友人が肩口に手を置き、軽く押して強制する。遥は必死に子犬を守ろうと視線を上げず、唇を震わせて応える。
「わ、わかってます……何でもします……だから……お願い、触らないで……!」
友人たちは笑い、颯馬はその様子をじっと見下ろす。
「ほら、言葉だけじゃなく、体でも示せ。犬ならそうするだろ?」
颯馬の足が遥の腰に軽く当たり、押し付ける。痛みで身体がびくっと反応する。友人たちはそれを見て笑い、誰かがバケツの残り水を遥の背中にかける。冷たさに全身が硬直するが、遥は声を上げず、ただ必死に子犬を守ろうとする。
「もっとな、四つん這いの姿勢でこっち向け」
颯馬が指示する。友人たちはモップや手で背中や肩を軽く押し、遥をコントロールする。地面に這いつくばった姿勢で、砂利の感触と冷たい水に震えながらも、遥の目は子犬から離れない。
「お前、これでもまだ不満か?」
颯馬の声は低く、冷たく響く。
「……違う……俺は……その……」
遥は言葉が詰まり、震えながらも反抗の色は出さず、条件通り体を動かす。子犬を守るためならどんな屈辱も耐えるしかない。
「じゃあ次は、あの犬を見てから飲め」
友人の一人が子犬を抱え、少し高く掲げる。遥は喉の渇きと戦いながら、指示通りに頭を下げ、口を水に近づける。子犬を落とさないために、身体全体で命令に従うしかなかった。
颯馬がゆっくり近づき、耳元で低く囁く。
「な、こうして言うこと聞けば守れるんだろ? ほら、もっと素直に見せろ」
遥は全身が震え、砂利の上で這いながらも、唇を震わせて答える。
「……わ、わかってます……俺は……犬です……あの子を……守ります……」
友人たちは笑い声を上げ、颯馬は満足そうに手を腰に当てる。
「いいな、まだまだ“躾”はこれからだ。これをちゃんと覚えろよ」
遥は砂利の冷たさや痛みに耐えながら、頭の奥でただひたすら子犬を守ろうと誓う。自分の痛みや屈辱などどうでもいい。目の前で小さく震える命が最優先だった。