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玄関の明かりがともる頃、空はすっかり群青色に沈んでいた。タクシーのドアを閉めながら、大地は深呼吸する。病院の消毒液の匂いが、まだ指先にまとわりついている気がした。


「……ありがとな、隼人」


小声で言うと、隼人は「気にすんな」とだけ返した。いつもの軽口はない。


家の前に立つと、木造の小さな平屋。庭先には鉢植えが並び、玄関灯の柔らかな光が二人を迎えた。

大地は鍵を回しながら、ふと笑う。


「初公開、俺んち。狭いけど、ようこそ」


靴を脱いで上がると、畳の匂いがひやりと鼻をくすぐる。居間には祖母が編みかけた毛糸玉が置かれ、静かな時間だけが漂っていた。


「ばあちゃん、明日には普通に喋れそうだって。大丈夫だよ」


大地は安心させるように笑い、キッチンへ向かう。

隼人はその背中を見ながら、胸の奥がじんわり熱くなる。

この家に父や母の気配はない。けれど、空っぽではなかった。

壁に貼られた古い家族写真に、幼い大地と若い母親らしき人影が微かに映っている。


「お茶でいい?」


ポットの湯気がふわりと立つ。


「おう。……大地、疲れてんじゃねえの?」


「んー、平気平気。父ちゃん母ちゃんもきっとどっかで『がんばれ』って言ってるだろーし」


さらりと出たその言葉に、隼人の胸が少し詰まった。

父ちゃん母ちゃん――大地が笑いながら呼ぶ両親は、ここにはいない。

それでも彼は明るく、その空白を笑いで埋めている。


「……お前、ほんと強ぇな」


つい漏れた言葉に、大地が目を丸くして笑った。


「え? 強い? 俺が? ただの元気担当だぜ?」


隼人は黙って湯飲みを受け取った。

心の中で、自分にだけ見せてくれた小さな夜の景色を、そっと握りしめる。


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