華子は自室の窓から顔を出してたばこを吸っていた。そこへ、ちょうど義理の妹・栞が帰ってきた。
高級外車から降りてきた栞を見て、華子は驚く。
車が走り去る前、運転席から顔を覗かせた男性の顔を、華子はしっかりと見ていた。
彫りの深い端正な顔立ちに、日に焼けたワイルドな雰囲気、お洒落なヘアスタイルは男の色気に溢れている。
歳は、栞よりもかなり上に見えた。
魅力的なその男性は、華子が理想とするタイプそのものだった。
(あんなハイスペックな男性が、なぜ高校生の栞と?)
華子は思わず顔をしかめる。
その時、直也を見送っていた栞が、玄関へ向かって歩き始めた。
それに気づいた華子は、たばこを急いでもみ消すと、部屋を出て一階へ降りていった。
栞が玄関を入ると、ちょうど義姉の華子が階段を降りてきた。
「栞ちゃんお帰り~」
「ただいま」
栞は、脱いだ靴をきちんと揃えて玄関の端へ置く。
その様子を見ながら、華子が栞に尋ねた。
「今日はバイトの日だっけ?」
「うん、そう」
帰宅時に、華子が出迎えてくれるなんて初めてだ。どういう風の吹き回しだろうか?
栞は少し不信に思いつつ、リビングへ向かった。
部屋に入ると、義理の母・弘子はまだ帰っていなかった。
ダイニングテーブルの上には、伏せた茶碗と汁椀の間に、キャベツの千切りと冷えたコロッケが載った皿が置いてある。
見覚えのあるコロッケは、駅近くの店で売っているものだ。
食事が用意されているだけでも感謝しなくては……そう自分に言い聞かせながら、栞は洗面所で手を洗い、着替えのために自室へ向かった。
姉の華子がついてくる様子がないので、まだリビングにいるようだ。
小さくため息をついた栞は、着替えを済ませると、再びリビングへ行った。
姉の華子はダイニングチェアに座り、ぼんやりとテレビを眺めていた。
栞が着替えをしている間に、コロッケや味噌汁を温めてくれてもよさそうなものだが、華子にそんな期待をしても無駄だと分かっている。
栞は自分で皿をキッチンへ運び、コロッケと味噌汁を温め始めた。
すると、華子が声をかけてきた。
「栞ちゃん、今日、誰かに送ってもらった? 窓から見えちゃった!」
それを聞いた栞は、『そういうことか』と納得した。
華子は、直也が誰なのか? 高級外車に乗ったイケメンと義理の妹がどういう関係なのか知りたいのだ。
以前の栞なら、華子の質問に素直に答えたかもしれない。
しかし、この時の栞の頭には、あの本に書かれていた一文が思い浮かんだ。
『搾取する人間は、どんな些細なことでもあなたの情報を欲しがります。情報を入手するためには手段を選びません。でも決してその手には乗らないで! あなたは相手に一切情報を与えてはいけません。情報を与えないことが、あなたの身を守る術なのですから』
栞は、本のアドバイスに従うことにした。
「たまたま知り合いに会ったから、送ってもらったの」
過呼吸の発作で直也と知り合ったことや、彼が精神科医であること、バイト帰りに直也に助けられたことなどは、すべて秘密にしておくことにした。
期待していた答えが返ってこなかったので、華子は不満気な顔をしている。
普段は包み隠さず何でも話す妹が、今日は言葉を濁して多くを語らない。
こんなことは初めてだった。
納得がいかない華子は、再度栞に尋ねた。
「結構年上の人だったよね? どんな知り合いなの?」
しつこく食い下がる華子に、栞は少しうんざりしながら答えた。
「バイト先で会った人」
それは、あながち間違いではなかった。今日、バイト先で会ったのは、事実なのだから。
しかし、栞の返事に満足できない華子は、さらに苛立ちながら強い口調でこう言った。
「受験前の大事な時期に、男の人と会うのはよくないわ。勉強に身が入らなくなるから!」
それは、かなり棘のある言い方だった。そんな華子を見て、栞は心の中でこんな風に思った。
(この人は、私が高級外車に乗った大人の男性に送ってもらったことが気に入らないんだわ。そして、先生のことが気になっているのね。だったらなおさら、先生のことは伏せておかないと! もし先生が医者だと知ったら、また前のようなことになりかねないし、先生にも迷惑をかけてしまうから)
栞は、過去にあった出来事を思い出しながら、直也についての詳細は華子に隠し通すことに決めた。
コメント
27件
慶尚大学にも入れない貴女には言われたく無いわねー😤😤😤
華子ちゃん‼️横取りは駄目です🙅 栞ちゃん先生の本の通り搾取されない様に頑張って‼️読者みんな応援しているよ
栞ちゃん✨ kaiさんの本が心の支えになってるね🥹実行に移せる栞ちゃんエライ💪