テラーノベル
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昼休み。クラスの端、遥は窓際の机に押し付けられて座らされていた。
背後では数人の男子と女子が、理科室から持ってきた何かを机に並べている。
「ほら、動くか試そうぜ」
机の下で足を拘束され、目の前のノートはもう文字だらけで、何を書いているのかすらわからない。
机上の道具は小型モーターや配線、乾電池。
「人体実験ってやつ?」
女子が笑い、男子が頷く。
配線の先は遥の制服の内側に滑り込む。冷たい金属が肌に触れる瞬間、背筋が跳ねた。
「おー、ビビってる」
スイッチが入ると、規則的な震えが腹の奥から突き上げてきて、呼吸が乱れる。
「反応見ろよ、顔真っ赤」
「これで体育出たらどうなるんだろうな」
遠巻きに見ていた連中も集まり、実験は延々と続く。
昼休みの終わり、配線は外されず、そのまま体育館へ行かされる。
跳ぶ、走る、止まる、そのたび奥に残る震えが響き、足元がふらつく。
笑い声は途切れない。
授業終了の笛が鳴ると同時に、耳元で囁きが落ちた。
「なあ、おまえってさ、こうやってる時が一番生きてる顔してんじゃん」
遥は何も返さない。否定すら、もう意味がないことを知っていた。
体育館を出た瞬間、膝が少し折れた。制服の内側でまだ小さく震えが残っている。
背後から、男子の一人が笑いながら肩を押す。
「おい、ちゃんと歩けよ。倒れたら面倒だろ」
「……わざとじゃねぇ」
掠れた声が勝手に漏れる。言い訳でも抵抗でもない。
「言い訳すんな。ほら、声出さないで歩けよ、見苦しいから」
笑い声がまた後ろで弾けた。
昇降口までの道、靴箱の陰で別の男子に腕を引かれる。
「まだ終わってねーだろ」
そう言うと、ポケットからスイッチを取り出して押す。
「っ……」
短く息が詰まる。
「何だよ、声、我慢できてねーじゃん」
「……黙れ」
吐き捨てたつもりの声は震えていて、相手の笑みを広げるだけだった。
「そういう顔、見たくてやってんのにさ。おまえが反応しなきゃ、つまんねぇんだよ」
外ではチャイムが鳴る。次の授業が始まるまで、あと数分。
その短い時間すら、遥には果てしなく長く感じられた。
チャイムが鳴って、教室に戻った。
机に座るとすぐ、背後から小さく机を蹴られる。
「顔、もっと普通にしとけよ」
低い声が耳の後ろで囁く。
黒板に書かれる板書なんか、頭に入らない。
足元の感覚と、背後からの視線だけが濃く存在してる。
――やめろ、こっち見るな。
そう思っても、反応が遅れた瞬間にまたスイッチが入る。
「……っ」
喉の奥が勝手に鳴る。
前の席の女子がわざとらしく振り返り、口の端だけ動かす。
“キモ”
声に出さず、でもはっきりと読める動き。
「おまえ、それでも授業受けてんの?」
後ろのやつがペンで俺の背中を突く。
「まあ、せいぜいバレんなよ。ここ全員見てんだから」
笑い声も、机のきしみも、鉛筆の音も、全部が自分を狙ってるようにしか聞こえない。
呼吸を浅くして、視界を狭めるしかない。
でも、狭めたところで、逃げ道はなかった。
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