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無名の灯 番外編

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無名の灯 番外編

23 - 第23話 誰にも見せない顔

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2025年07月20日

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──放課後の遊園地。夕焼けが観覧車の鉄骨を橙に染め、アトラクションのざわめきが遠くへ揺れていた。


日下部が無言で差し出したのは、思ったより小さなチケットだった。


「……二人用、って書いてあるけど」


「だから、ってことじゃないの」


遥は眉をひそめたまま、そのまま乗り込んだ。


ぎし、と観覧車のゴンドラが揺れる。乗り込んだ瞬間、狭さが際立った。太ももが、肩が、わずかに触れる。ふたりとも、そっぽを向いたまま数分が過ぎた。


「さっき、蓮司が言ってた。おまえ最近、ちゃんと笑ってるって」


「……あいつ、いちいち見てんな」


「オレも、見てたけど」


遥は言葉を飲み込んだ。横顔が近い。いつもより、少し無防備な日下部の睫毛。首筋の下、制服の第一ボタンが緩んでいるのが見えた。


「……なあ、」遥がぽつりと言う。


「もし、オレがおまえのこと、ほんとに好きだったら、どうする?」


日下部は黙っていた。その沈黙が、観覧車の揺れと一緒に、重力みたいに遥の胸を圧した。


「べつに、そうだって言ってねーけど。たとえば、ってだけだし」


「──だったら、もう少し近くに座ればいいのに」


低く、かすれた声だった。遥が顔を向けた瞬間、唇が、触れた。


正確に言えば、触れそうで、触れなかった。

ぎりぎりの距離で、日下部の目が見ていた。怖がってるみたいで、なのに、逃げなかった。


「……馬鹿か、おまえ」


「うるせぇ」


「……顔、赤い」


ふたりとも、もうそれ以上何も言わなかった。観覧車がゆっくりと高みに近づく。街の灯りが滲み始めるその下で、指先が、かすかに絡んだ。



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