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修学旅行、二日目のバス車内。
エンジンの振動が、骨の奥に響いていた。
窓の外を流れる風景は、ただの模様にしか見えない。
遥の席だけが、不自然に空間を空けられていた。
その前に教師が立ち、笑っていた。
「昨日の反省、ちゃんとしたか?」
声は柔らかいが、目は笑っていない。
遥は答えなかった。喉が凍って、言葉が出なかった。
後ろの座席から、クスクスと笑いが起こる。
「返事は?」
教師の声が鋭くなった。
隣の男子が、遥の肩を小突いた。
その瞬間、バスの中の空気がぴんと張りつめた。
「先生、こいつ全然反省してませんよ」
結城が言った。
教師は頷く。
「そうか。……じゃあ、もう一度やるか。学ばないとな」
静寂。
その一言で、何かが始まる合図になった。
誰も止めなかった。
むしろ楽しげに、笑い声が広がっていく。
背中を蹴られる衝撃で、遥の体が前の座席にぶつかる。
「声出すな」と誰かが言う。
教師はそれを見て、目を細めた。
まるで“教育的指導”を見守っているかのように。
「お前さ、周り困らせて楽しいのか?」
「謝れよ、全員に」
「なんでできないんだよ」
言葉のひとつひとつが、罰の形をしていた。
教師が口を挟む。
「人の迷惑を考えられない奴は、こうして覚えるしかないんだ」
頷く生徒たち。
その中で、誰かが遥の鞄を引き裂いた。
紙や筆箱が床に散らばる。
誰かがそれを踏みつけ、別の誰かが笑った。
「いいぞ、そうやって現実見ろ。逃げるなよ、遥」
教師の声が、刃物より冷たく響いた。
遥は何も言わなかった。
言葉はもう、意味を失っていた。
代わりに聞こえるのは、笑いと、革靴が床を踏む音。
バスはただ走り続ける。
目的地の風景は近づくのに、車内だけがどんどん遠ざかっていく。
誰の声も届かない場所へ。