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遥の相談室2

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遥の相談室2

77 - 第77話 何も選んでないのに、勝手に決まっていく感じ

2026年01月03日

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──流されてるだけなのに、あとから“自己責任”になる怖さ。


相談室に入ってきた相談者は、最初から困ったような顔をしていた。

怒っているわけでも、落ち込んでいるわけでもない。ただ、どこに置けばいいか分からない表情だった。


「別に、今すぐ困ってることがあるわけじゃない」


そう前置きしてから、少し間を置く。


「でもさ……このままでいいのか分からない」


遥は椅子に深く座り直し、視線を外さずに聞いていた。


「進路とか、将来とか。

みんな、“自分で決めろ”って言うだろ」


相談者は机の端を指でなぞる。


「でも実際は、

時間割があって、校則があって、

気づいたら選択肢が減ってる」


言葉を選びながら続けた。


「選んだ記憶はないのに、

“もうここまで来たんだから”って言われる」


遥はすぐには答えなかった。


「流されてただけなのに、

あとから“それを選んだのは自分でしょ”って言われるの、ズルくない?」


相談者の声には、怒りというより戸惑いがあった。


「やめたくなっても、

“今さら?”って空気になるし」


遥は静かに口を開いた。


「決断してないことは、意外と多い」


相談者は顔を上げる。


「でも、進んでる」

「そう。進んでしまう」


遥の声は低い。


「学校も、学年も、時間も。

止まらない」


相談者は小さく息を吐いた。


「ちゃんと考えてないわけじゃない。

でも、考える前に決まっていく」


「考える時間は、用意されないことが多い」


遥は淡々と言った。


「特に、“普通”のルートにいると」


相談者は少し笑った。


「問題起こしてない人ほど、止まってもらえない」


「そうだな」


遥は否定しなかった。


「問題がない=納得してる、って扱われる」


しばらく沈黙が落ちた。


「……このまま行ったら、

いつか“選ばなかったこと”まで自己責任になる気がして」


相談者は言った。


「選ばされてないのに」


遥はゆっくり言葉を探した。


「責任って、本当は“選んだ量”とセットのはずだ」


相談者の眉が動く。


「選んでないなら、責任も重くならない。 でも現実は逆だよな」


遥は続けた。


「何も選ばないまま進むと、

全部まとめて自分の人生になる」


相談者は苦い顔をした。


「逃げ場がない」


「だから、途中で息が詰まる」


遥は机に視線を落とした。


「大きな決断じゃなくていい。

小さく選ぶしかない」


「小さく?」


「今日はどこで座るか。

どの道で帰るか。

今、何をしないか」


相談者は首をかしげる。


「そんなの、意味ある?」


「ある」


遥は即答した。


「選んだ感覚が残る」


相談者は考え込む。


「選ばないでいると、

“自分で生きてる感覚”が薄くなる」


遥は続けた。


「それが一番、後から効いてくる」


相談者の表情が、少しだけ変わった。


「……自分の人生なのに、

参加してない感じがしてた」


「参加しなくても進むからな」


「じゃあ、途中から参加してもいい?」


遥は一拍置いてから答えた。


「いいに決まってる」


相談者は、ほんの少し笑った。


「なんかさ、

選ぶのが怖いっていうより、

選んだって実感が欲しかっただけかも」


遥は何も言わなかったが、その沈黙は否定じゃなかった。


ドアが閉まり、相談者が去る。


残された静けさの中で、遥は思う。

人生は、選ばなくても進む。

だからこそ、

小さな選択が、唯一の手応えになる。


流されてきたこと自体は、罪じゃない。

ただ、どこかで立ち止まって、

「今ここにいる」と自分で確認する必要がある。


それが遅すぎることは、ない。

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