テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それを選んだとき、「自分で決めた」という感触は、なかった。
誰かに強く言われたわけでもない。
無理やり押しつけられたわけでもない。
選択肢は並んでいて、理由も一応あって、
順番が回ってきたから指を伸ばしただけだった。
それで十分だと思った。
むしろ、それ以上を求めるのは贅沢だと思った。
失敗しにくい。
否定されにくい。
「ちゃんとしてる」と言われる。
それはたしかに“正解”だった。
なのに、
決まったあと、胸の奥が妙に静かだった。
嬉しくもない。
後悔もない。
ただ、何も起きていない感じ。
達成感がないのは、まだ始まっていないからだと思った。
慣れれば、そのうち実感が湧くはずだと。
でも、時間が経っても変わらなかった。
制服を着て、
決めた場所に行き、
決めた役割をこなしているのに、
「ここにいる理由」が、
いつも一歩遅れてついてくる。
間違ってはいない。
逃げてもいない。
投げ出してもいない。
それなのに、
“自分が選んだ人生”を歩いている感覚がない。
誰かの人生を代わりに進めているみたいだった。
「自分で決めたんでしょ?」
そう言われるたび、うなずく。
たしかに、決めた。
最終的に選んだのは、自分だ。
でもその選択は、
「嫌われない自分」
「失敗しない自分」
「波風を立てない自分」
が、勝手に前に出てきて決めただけだった。
本当の自分が
何をしたいか、何が好きか、
考える前に終わっていた。
考えなくても困らない選択肢を、
無意識に選び続けてきた。
それは楽だった。
傷つかない。
否定されない。
ただ、
「これは俺だ」と言える瞬間が
どこにもなかった。
何かを失ったわけじゃない。
何かを奪われたわけでもない。
でも、
自分で決める感覚だけが、
少しずつ削れていった。
今さら「やり直したい」と言うほどの不満もない。
かといって「この道でよかった」と
胸を張れるほどの納得もない。
選び続けてきたはずなのに、
自分がどこにもいない。
それがいちばん、説明しづらい。
困っていると言うほど困っていない。
でも満たされているとも言えない。
ただ、
何を選んでも、
「自分で決めた感じ」がしない。
その空白を抱えたまま、
今日もまた、無難な選択をする。
それが間違いじゃないことだけは、
もう分かっているのに。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!