テラーノベル
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翌日。リレー本番を控えた放課後。クラスメイトたちは体育館の片隅で作戦会議をしていた。
「大地、アンカー頼んだぞ!」
「任せて! 昨日の特訓でバッチリだ!」
その言葉に、隼人は心のどこかがチクリとする。
(昨日の特訓は、俺と二人きりの秘密だったはず……なのに)
「大地くん、練習手伝うよ!」
クラスの女子・美咲が笑顔で駆け寄った。
「え、いいの? 走り方とか教えてほしい!」
大地は無邪気にハイタッチ。
その瞬間、隼人の口から思わず声が出た。
「おい、走り方なら俺が……」
言葉が途中で止まる。
周囲が一瞬だけ静まり返った。
(なに言ってんだ俺)
心臓がやけに早い。
「ま、まあ。俺、昨日も一緒に走ったしな」
苦しい言い訳。
大地は首をかしげて笑った。
「隼人、変な顔してるぞ。熱でもある?」
「ねーよ!」
空回りは止まらない。
練習が始まると、美咲が大地の腕を取ってフォームを直す。
その光景が視界の端にちらつくたび、隼人の足が微妙に合わなくなる。
「隼人、スタートタイミングずれてる!」
クラスメイトの声が飛ぶ。
「わ、わかってる!」
自分でも笑えるくらい集中できない。
(何だよ、ただの練習なのに。何でこんな……)
休憩時間。
大地がペットボトルを差し出す。
「ほら、飲めよ。隼人、今日どうしたんだ?」
「……別に」
視線を逸らすと、体育館の壁の向こうで夕日が赤く差し込んでいた。
「昨日の夜、楽しかったな」
不意に大地が言った。
「二人で走ったあの感じ、なんかクセになる」
隼人の胸の奥が、かすかにほどけた。
「……だろ?」
小さく返した声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
大地が笑う。
「本番、絶対勝とうな!」
「おう」
気づけば、嫉妬の熱は静かに溶けていった。
ただその笑顔を見ていたい。
理由なんて、もうどうでもいい。
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