テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深夜二時。部屋の空気は淀み、加湿器の出す湿った音だけが、瑛人くんの穏やかな寝息に重なっている。
私はベッドの横に座り込み、その無防備な喉仏をじっと見つめていた。
ねえ、瑛人くん。さっき君のスマホ、見ちゃった。
あの子へのメッセージ。「今度の休み、空けておいて」なんて、私にはもう半年も言ってくれていない言葉だよね。
画面の光が目に刺さって、指先が痺れる。君の心の中から、私の居場所が少しずつ削り取られていく。その「間違い」を、私はどうしても許せなかった。
私はゆっくりと立ち上がり、キッチンへ向かう。
選んだのは、二人で新しい生活を始める時に買った、よく切れるナイフ。
一度研いだばかりのそれは、月明かりを吸い込んで、残酷なほどに白く光っている。
私はナイフを手に取り、再びベッドサイドへ戻った。
君の首筋に、冷たい刃先をそっと、本当にそっと添える。
「ねえ、瑛人くん。起きて」
囁きに反応して、彼がうっすらと瞼を持ち上げた。
目の前にある銀色の刃と、私の顔。瑛人くんの瞳が、理解できない恐怖で爆発するように見開かれる。
叫ぼうとする彼の口を、私は左手で力一杯、骨が軋むほど強く塞いだ。
「しーっ。静かに。今から、君を直しあげるんだから」
よく切れるナイフを、そのまま真横に滑らせる。
抵抗は、驚くほどに無かった。
熟れた果実の皮を剥くよりも容易く、刃は皮膚を裂き、その奥にある熱い塊へと到達する。
スッ――。
手応えとともに、私の指先を熱い液体が濡らした。
鉄の匂いが一気に部屋の空気を塗り替える。
瑛人くんの体はビクンと大きく跳ね、塞いだ手の下で、言葉にならない絶望がゴボゴボという音になって溢れ出した。
「あはは、すごい……。本当に、びっくりするくらい綺麗に切れるね」
私は馬乗りになって、溢れ出す赤を全身に浴びながら、さらに深く、深く「修正」を続けた。
シーツに広がった赤は、まるで私たちがいつか見た夕焼けよりも鮮やかで、深い。
瑛人くんの手が私の腕を掴もうとして、爪が私の皮膚を立てる。でも、それもすぐに力なく解け、シーツの上を滑り落ちた。
光を失っていく彼の瞳。そこに映っているのは、今までで一番幸せそうに笑っている、私。
やがて、シーツを叩く湿った音も止まった。
私は血で重くなったナイフを床に転がし、動かなくなった瑛人くんの首筋に顔を埋めた。
まだ微かに残る体温。これが、私の求めていた「永遠」のかたち。
けだま15号🍓🐾໊
77
ふと、枕元で彼のスマホが震えた。
あの子からの通知。『明日、楽しみにしてるね』。
私はクスクスと笑いながら、彼の頬に溜まった血を指ですくい、自分の唇に厚く、丁寧に塗った。
鏡を見なくてもわかる。今の私は、瑛人くんの色に染まって、誰よりも可愛い。
「明日なんて、もう誰にも来ないのに。ふふっ……」
私は冷たくなった彼の首を抱きしめ、親愛を込めて、その動かない耳に息を吹きかけた。
「も〜瑛人くんが悪いんだよ?」