「……あー、別に深刻じゃないんで」
相談者は笑いながら言う。
声は大きいし、態度も軽い。
「ほう。
その“別に”が出たときは、だいたい深刻だ」
蓮司はコーヒーを置く。
「家のこと?」
「……まあ」
「陽キャが“まあ”って言うときは、話したくないときだな」
「ちょ、決めつけひどくないですか」
「当たってるだろ」
相談者は笑うけど、目だけが笑ってない。
「家に帰るとさ、急にテンション下がるんすよ」
「うん」
「親、仲悪いとかじゃないし。殴られるとかでもないし」
「“でも”が続くな」
「……家にいると、自分が邪魔な感じする」
蓮司は少しだけ眉を上げる。
「誰かに言われた?」
「いや。言われないのが逆にきついっていうか」
「なるほど」
沈黙。
「なあ」
蓮司が言う。
「お前、家で“明るくしなきゃ”って思ってないか」
相談者は一瞬、言葉に詰まる。
「……あー」
「学校と同じこと、家でもやってる顔だ」
「……やってますね」
「それ、しんどいだろ」
相談者は肩をすくめる。
「でも、暗くすると空気悪くなるし」
「誰の責任だ?」
「……俺?」
「違う」
蓮司は即答する。
「家庭の空気を保つ係は、子どもじゃない」
少し間を置いて。
「でもな、お前は“いい子”が上手すぎる」
「……」
「明るいと助かる。
文句言わないと楽。
だから周りは甘える」
相談者は笑おうとして、やめた。
「家でくらい、何もしないでいいって思いたいです」
「それ、普通の願いだ」
「でも、俺が黙ると、全部止まる気がして」
蓮司は椅子にもたれる。
「止まらない」
「え」
「止まるなら、元からお前一人で回ってた家だ」
相談者はゆっくり息を吐く。
「……学校では、俺が元気じゃないと変じゃないですか」
「変だな」
「やっぱ?」
「“元気なやつ”って役を降りられないのは、それもうキャラじゃなくて檻だ」
相談者は黙る。
「なあ」
蓮司は少しだけ声を落とす。
「陽キャでも、家で元気じゃなくていい」
「……」
「外で笑えるなら、それはもう十分頑張ってる」
最後に、軽く。
「家で黙ってるお前も、ちゃんと本人だからな」
相談者は小さく笑った。
「それ、初めて言われました」






