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放課後、昇降口を出た瞬間、空気が変わった。校門の向こうに、知らない大人たちが数人立っている。
スマホをこちらに向けながら、笑っている。
目が合った瞬間、背筋が凍る。
その笑いは、クラスのやつらの笑いと同じ形だった。
「本物だ……」
「昨日の動画の」
耳に入るだけで、皮膚がざわつく。
どうして俺の“昨日”を知ってる?
答えはわかってる。
あの映像がもう、クラスの外にまで流れている。
それだけじゃない。
名前も、顔も、全部。
駅までの道で、すれ違う高校生たちがニヤニヤしてスマホを覗く。
画面の中の俺が、何度も動いて、笑われている。
まるで俺が勝手に“演じている”みたいに。
家に着くと、リビングに義母がいた。
テレビはついていないのに、妙に明るい顔でこっちを見た。
「ねぇ……学校で流行ってるらしいじゃない?」
吐き捨てるようでもなく、からかうようでもなく、
ただ事実を確認するみたいに。
「違う」と言えばいいのに、喉が動かない。
反論する資格なんてないような空気が、家の中にも漂っていた。
俺の部屋のドアを閉めても、スマホの通知は止まらない。
「いいね」が増えていく音が、頭の奥で響き続ける。
夜になって、担任から電話がきた。
「明日、生活指導室に来なさい。君の件で話がある」
件──。
その言い方が、俺を被害者ではなく“問題の中心”に置いているのがわかる。
守るためじゃない、管理するための呼び出しだ。
きっと、俺がどうしてそうなったかなんて、誰も興味はない。
映像の俺だけが、俺の全てとして流通していく。
教室でも、家でも、街でも。
俺は俺の外側で、勝手に生きて、笑われて、消費される。
布団をかぶっても、閉じた瞼の裏で再生される。
あの時の、笑い声。
金属の冷たさ。
喉から漏れた音。
──消えない。
俺の逃げ場は、もうどこにもない。