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映画のポスターの前で、立たされる。
「今から映画なんだよ」
「終わるまで、そこで待ってて」
軽い調子。
でも“命令”だと、遥には分かる。
「帰らないと……」
その一言で、空気が変わる。
「は?」
「家? どうせ殴られるんでしょ」
「なら同じじゃん」
違う。
帰るのが遅れたら、もっと酷くなる。
遥が通路を抜けようとした瞬間、
背中を強く押され、壁に叩きつけられる。
「逃げんなって」
映画館は暗い。
音は大きい。
外の通路は、人が少ない。
――選ばれた場所だ。
「抵抗するんだ?」
「珍しくない?」
遥は腕を振り払う。
それだけで、笑い声が起きる。
「見た?」
「反抗期?」
次の瞬間、腹に拳。
息が詰まる。
床に膝をつく。
「はい、ダメ」
「立て」
立たされる。
また殴られる。
一人が殴る。
次が受け取る。
順番。
完全に、サンドバッグ。
時間が、異様に長い。
時計を見ることは許されない。
スマホは最初に取り上げられた。
「まだ始まったばっかだろ」
「二時間くらい?」
遥の頭の中は、それだけ。
――帰れない。
――帰れないと、家で終わる。
「やめてくれ」
小さな声。
それを聞いた瞬間、誰かが遥の顔を掴む。
「声出す元気あんじゃん」
「なら、いけるな」
頬を打たれる。
派手じゃない。
繰り返し。
通りすがりの大人が、一瞬こちらを見る。
でも、目を逸らす。
「ほら」
「誰も助けない」
それが、最大の暴力。
遥は歯を食いしばる。
泣かない。
泣いたら、もっと長くなる。
「抵抗するからさ」
「自業自得」
殴られながら、遥は必死に立ち続ける。
倒れたら、「休憩」になる。
休憩は、次の始まりだと知っている。
やっと、映画館から人が出てくる音。
「そろそろだな」
「最後に」
肩を蹴られ、床に転がされる。
「片付けとけ」
「血、目立つから」
連中は笑いながら去る。
遥は、しばらく動けない。
立ち上がったとき、足が震えている。
時計を見る。
――遅い。
家に帰れば、理由は聞かれない。
「なんで遅れた」
「その態度なに」
今日の分が、家で続く。
抵抗した分だけ、“外”と“家”の地獄は、確実につながっていく。