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放課後の相談室。窓の外は夕陽に染まっている。 ドアを開けて入ってきたのは、肩までの髪を少しだけ巻いた女子だった。制服のリボンはゆるく、靴は少し擦り切れている。
 「……ここ、相談できるって聞いたんだけど」
 「うん。座れよ」
 遥は机に肘をつき、ノートを閉じながら答えた。
 女子は椅子に腰を下ろすと、机にスマホを置いてため息をついた。
 「友達……っていうか、グループのことなんだけど」
 「うん」
 「仲良いはずなのに、なんか私だけ置いてかれてる感じするの。グループLINEでも既読スルー多いし、遊びの誘いもいつも最後。たぶん、外されるの時間の問題」
 女子は苦笑した。
 「別に嫌われるようなことした覚えないのに。……なんでかわかんない」
 遥は少し黙り、ペンを指先で回しながら言った。
 「理由、たぶんないよ」
 「え?」
 「嫌うのに理由とか、そんなちゃんとしたもん、ない。空気で決まる」
 女子は目を見開き、すぐに俯いた。
 「……そうなのかな」
 「そう。俺もずっとそうだから。理由なんかなくても、笑われたり外されたりする」
 女子は机の端を握りしめた。
 「じゃあ、どうすればいいの」
 「……どうもしない」
 「え?」
 「抗っても無駄だから。俺は流されるふりしてる。……そしたら、全部からは外されない」
 女子はしばらく黙っていた。
やがて小さな声で、「それって、耐えるだけってこと?」と聞いた。
 遥は苦笑した。
 「まあな。でもさ……」
 そこで言葉を切り、窓の外を見た。グラウンドから吹奏楽部の音が遠くに響く。
 「無理に居場所作ろうとすると、もっと苦しくなる。だから、最低限のとこにだけ立っとけばいい」
 女子はスマホを手に取り、画面を見つめながら小さくつぶやいた。
 「最低限の……居場所」
 遥は彼女を見て、言った。
 「外されそうで怖いって思ってるうちは、まだ完全に外れてない。だから、今はそれで生き残れる」
 女子はしばらく目を伏せたまま、急に笑った。
 「遥ってさ……なんか、諦めてんのに慰めになる」
 「それ、褒めてんのか」
 「褒めてる」
 笑いながらそう言った彼女の目は、少し赤く滲んでいた。
 「ありがと。……明日、ちょっとだけマシかも」
 そう言って女子はスマホをポケットに押し込み、ドアを開けて出ていった。
残された相談室で、遥は机に突っ伏した。
 ――マシになるのはいいな。
でも俺には、もうそういう「明日」は来ない気がしている。