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#読み切り
最初に気づいたのは、声をかけられなくなったことだった。
昼休みの廊下。
いつもなら、どこからともなく視線が絡んでくる。
蓮司の位置は把握できなくても、空気で分かった。
今日は、それがない。
(日直か? いや……)
日下部は立ち止まり、周囲を見回した。
クラスメイトはいつも通り騒いでいる。
誰も、こちらを気にしていない。
(……変だな)
違和感は、小さい。
だが、無視するには引っかかりが強かった。
階段の方から、笑い声が聞こえる。
昨日までなら、あの手の声は自然と耳に入らなかった。
今日は、妙に輪郭がはっきりしている。
「さっきのあれさ、マジで面白かったよな」
「遥? あいつな」
名前が出た瞬間、足が止まる。
(どうした、俺)
自分にそう言い聞かせる。
関係ない。
もう、自分がどうこうする話じゃない。
(……そうだろ)
なのに、胸の奥がざわつく。
「日下部さ、何も言わなかったし」
「つーか、もう関わんねぇ感じじゃね?」
その言葉が、妙に軽かった。
(……え)
思わず、振り向きそうになる。
だが、体は動かない。
(何も言わなかった?)
違う。
言わなかったんじゃない。
言う必要がない空気になっていた。
それに、自分がそれを選んだ。
(俺が……?)
廊下の先に、蓮司の姿があった。
友人と話しているように見える。
こちらには、気づいていない――いや、気づいていても、見ていない。
目が合わない。
(あ)
その瞬間、はっきりした。
切られた。
理由は分からない。
怒らせた覚えもない。
役に立たなかった?
それとも、もう十分だった?
(……待てよ)
喉がひくりと鳴る。
(俺、何かしたか?)
問いは浮かぶ。
だが、どれも曖昧で、形にならない。
蓮司は振り向かない。
声もかけない。
それが答えだった。
(そういうことか)
納得したくて、理由を探す。
自分の中に落とし込める形にしないと、立っていられない。
(俺が中途半端だったんだ)
そう思えば、楽だった。
正義でも裏切りでもなく、ただの能力不足。
(だから切られた)
その結論にしがみつく。
同時に、別の光景が脳裏に浮かぶ。
階段裏。
床に伏せる遥。
笑い声と、遠慮のなくなった足。
(……関係ない)
強く否定する。
(あれは、俺のせいじゃない)
そうでなければ、辻褄が合わない。
放課後。
校舎の外で、蓮司とすれ違った。
一瞬、目が合う。
――何も起きない。
それだけ。
挨拶も、表情も、合図もない。
まるで、最初から存在しなかったみたいに。
日下部は、その場に立ち尽くした。
(……終わった)
何が終わったのか、説明はできない。
ただ、確実に切られた。
遠くで、誰かが言う。
「日下部もさ、可哀想だよな」
その言葉が、胸に刺さる。
(可哀想?)
それは、守られる側の言葉だ。
使われなくなった者に貼られるラベル。
(違う)
そう思いたかった。
だが、反論できる根拠は、もうどこにもなかった。